<社説>米軍事件情報共有 小手先の改善許されない


<社説>米軍事件情報共有 小手先の改善許されない
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 米兵による重大事件の情報は即時に県や市町村と共有されなければならない。そのことが県民の生命・財産を守る前提となるからだ。

 米兵による性的暴行事件の情報を県に伝えなかった政府の対応について林芳正官房長官は5日の会見で「関係省庁で連携し、可能な範囲で自治体に情報を伝達する」と述べた。情報共有の「改善」は5日に運用を開始した。上川陽子外相は4日の会見で「情報共有の在り方について工夫、改善を考えている」と述べていた。

 林官房長官の発表内容で情報共有が「改善」するのか、甚だ疑わしい。「可能な範囲」と留保を付ける理由は何なのか理解に苦しむ。沖縄側が求めているのは日米間で合意している事件・事故通報基準の完全な履行であり、今回、情報共有がなかったことの厳密な検証である。小手先の運用改善は許されない。

 情報の非共有について玉城デニー知事は3日、「極めて大きな問題」と上川外相に抗議している。県内市町村も政府の対応を批判した。那覇市内で4日にあった抗議集会では、米軍に関する全ての事件・事故を隠蔽(いんぺい)することなく公表することを求めている。10日には県議会で可決予定の抗議・意見書でも迅速な通報体制の確立を要求する。

 今回の政府の対応を県や県議会、市町村が問題視するのは県民の生命・財産が軽視されたと受け止めているからだ。円滑な通報と情報共有を図ることによって、行政・地域の連携による防犯活動が可能となるのである。

 林官房長官が言う「可能な範囲」とは被害者のプライバシー保護や捜査への影響を念頭に置いているのであろう。しかし、プライバシー保護と情報共有は必ずしも矛盾するものではない。

 そもそも、米軍人・軍属による事件・事故の通報基準は1997年3月の日米合同委員会で合意されている。(1)米軍機や米艦船の事故(2)危険物や有害物の誤使用・流出・漏出(3)日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件―などについて速やかに米側から日本側関係当局に伝え、地元社会に通報する経路を定めている。

 事実、県によると米軍関係者による性犯罪について、2021年までは沖縄防衛局や県警から連絡を受けていた。

 この日米合同委員会の合意内容が形骸化しているのではないか。政府が情報共有の在り方を改善する前提として、合同委員会の合意に沿った情報伝達がなぜ中断しているのかを検証し、責任の所在を明らかにすることだ。

 事件・事故の通報と情報共有の取り決めを政府の都合で恣意(しい)的に運用することがあってはならない。もしも辺野古新基地建設問題で政府と厳しく対峙(たいじ)している県には情報を提供しなくてもよいなどと政府が考えていたならば言語道断である。