<社説>米軍事件情報共有 「合意後退」は許されない


<社説>米軍事件情報共有 「合意後退」は許されない
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 米軍事件・事故に関する情報伝達・共有の手続きを定めた日米合意の後退は許されない。米軍基地を抱える地域住民の安全と人権保護を優先した情報共有に徹するべきだ。

 上川陽子外相は7月30日の参院外交防衛委員会の閉会中審査で、米軍構成員に関わる刑事事件の情報共有の在り方について「社会状況の変化も踏まえた対応が必要となる」との見解を示した。刑事事件に関しては「事故と異なる配慮が必要」とも述べている。

 この答弁だけでは外務省の方針は判然としないが、航空機墜落などの事故と刑事事件を切り離した情報伝達・共有を検討していることが予想される。これでは米軍事件・事故の通報手続きを定めた1997年の日米合同委員会の合意事項から後退する恐れがあり、受け入れられない。

 まず問題とすべきは97年の合意が形骸化していることだ。沖縄だけでなく全国の基地を抱える地域で事件に関する情報が県や市町村に伝えられていないのである。その理由や経緯を上川外相は明確に答える必要がある。

 沖縄で連続して起きた性暴力事件などでは、被害者のプライバシーは当然保護されるべきである。

 しかし、関係省庁や県・地方自治体が事件の情報を共有し、再発防止などの対応策を講ずることと、被害者のプライバシー保護が直ちに矛盾するとは言いがたい。むしろ、昨年12月の少女誘拐暴行事件では、情報共有がないため被害者の精神的なケアなど必要な措置もなされなかった可能性が指摘されている。

 何よりもプライバシー保護に名を借りた日米合意の恣意(しい)的運用を恐れる。上川外相の答弁にある「社会状況の変化」とは何を意味するのか。政府与党の政治的な都合によって情報伝達・共有の在り方がゆがめられるようでは困る。97年の合意に基づく情報通達手続きの基本に立ち返ることが先決である。

 それなのに上川外相は他にも驚くべき答弁をした。この合意内容について「詳報を把握していなかった」というのだ。これには唖然(あぜん)とするほかない。県民の生命・財産を脅かし続ける米軍事件・事故への関心度が省内で著しく低下していることがうかがえる。

 日本政府や地元と協議する新たな枠組みとして在日米軍司令部が提案している「フォーラム」についても、上川外相は30日の衆院安全保障委員会で「日米双方と地元の利益にかなう具体的な協力を生み出せるような場としたく、米側と地元側と調整している」と述べた。これは事件・事故に限定した協議の枠組みでないことを示したものだ。

 これでは米軍基地の運用に関わる具体的な協議を避けてきた米側の意向に沿った枠組みになりかねない。沖縄が求めているのは真に実効性が伴う米軍事件・事故への対処と再発防止を厳格に協議する場である。