<社説>安和の土砂搬出再開 県民の心無視する暴挙だ


<社説>安和の土砂搬出再開 県民の心無視する暴挙だ
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 米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古への新基地建設で、沖縄防衛局は22日、死傷事故の発生で中断していた名護市安和からの土砂の搬出作業を再開した。県警による事故原因の究明は終わっていない。安全対策も確立しない中での再開は新たな事故を招きかねない。

 しかも、この日は対馬丸撃沈から80年の節目である。子どもたちを含む犠牲者の冥福を祈る県民の心を無視する暴挙と言うほかない。

 新基地建設を巡り、防衛局は20日から大浦湾側で護岸造成の本体工事を開始した。埋め立て承認の留意事項に基づく県との事前協議は調っていないにもかかわらずだ。県民の間に新基地建設への反対の意思は根強く、工事を進める状況にはないのである。埋め立て用土砂を搬出するための安和の作業を含め、直ちに中断すべきだ。

 防衛局は警備員らにバリケードを組ませ、抗議する市民らが牛歩などによって搬出を阻むことができないようにした。市民を排除して作業を進める防衛局の対応にはダンプカー運転手も「市民が反発し、かえって現場は危なくなる」と懸念している。事故が繰り返されるようなことがあってはならないはずだ。

 防衛局は現場の安全対策を県に求めた文書で、市民らの抗議活動を「妨害行為」と決めつけた。ダンプカーが抗議活動中の女性と警備員に衝突した事故については警察の捜査が続いている中での断定である。防衛局は安全対策を施すよう県に要請しているが、そのために県が求めている協議は進んでいない。

 安全対策を一方的に県に求める防衛局の態度は、事故の責任を押し付けているように見える。自らの監督責任をどのように考えているのか。

 県との協議や調整に応じず作業を強引に進める防衛局の行為は、力で沖縄を従わせようとする政府の非民主的な体質を如実に示すものだ。

 大浦湾側の本体工事着手などに合わせて工事の進捗(しんちょく)を既成事実化する意図があるのだろう。地元への「丁寧な説明」を通して県民の理解を得るとの政府の説明とは全く相いれない。政府内でどう整合性を図っているのか、説明してもらいたい。

 安和の作業を再開した22日は、対馬丸撃沈80年の慰霊祭があった。対馬丸を含む26隻の戦時撃沈船舶の被害者らが巻き込まれた「海の戦争」に思いをはせる、沖縄にとって大切な鎮魂の日であった。慰霊祭には自見英子沖縄担当相が出席している。

 犠牲者を悼み、平和を祈る県民に配慮する考えはなかったのか。防衛局は機動隊の配置も要請しており、実際に警官が市民を排除した。鎮魂の祈りを無視した作業再開は、大きな禍根を残す。

 真に県民の理解を得て進めるということであれば作業を停止し、県との協議に臨むべきだ。