<社説>処理水放出1年 漁業者支援に全力尽くせ


<社説>処理水放出1年 漁業者支援に全力尽くせ
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 漁業者の苦境は今も続いていることを忘れてはならない。国は漁業者支援に全力を挙げなければならない。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が始まって24日で1年となった。今月7日から25日にかけて8回目の放水を実施し、約7900トンを放出した。この1年間の放水量は約6万2千トン余となる。

 現時点で周辺海域でのモニタリング(監視)で海水などに異常は確認されていない。処理水放出は2051年までに完了する計画だ。先は長い。

 一方、廃炉には溶融核燃料(デブリ)取り出しが不可欠だが、最初からつまずいた。

 今月22日、福島第1原発2号機のデブリ取り出しに向けた準備作業を開始したが、約1時間半で中断した。回収装置を押し込むパイプの取り付け順を間違えたというケアレスミスが原因である。許されない事態であり、同じことを繰り返してはならない。

 2011年3月の東日本大震災とそれに伴う津波が引き起こした福島第1原発事故は多くの地域住民の平穏な生活や経済活動を根底から覆した。さらに海をなりわいの場としている漁業者は処理水放出で大きな痛手を受けた。

 1年前の処理水放出は福島県漁業協同組合連合会の強い反対を押し切るかたちで始まった。処理水を「核汚染水」と主張する中国が日本産の水産物の全面禁輸に踏み切ったことで漁業者は大きなダメージを受けたのである。処理水放出を決断した国は息の長い漁業者の支援が求められる。

 処理水放出1年に際し、福島県漁連の野崎哲会長は「廃炉はのどに刺さった骨として残るが、私たちの力を漁業に傾注させてほしい」と語っている。24日に福島県いわき市の小名浜魚市場を視察した岸田文雄首相に対し、野崎会長は「県漁連として放出には反対。これからも緊張感を持ってほしいと伝えた」という。

 政府や東電関係者は野崎会長の言葉を切実に受け止めなければならない。岸田首相は漁業・水産業者支援を政府として強化する考えを表明し、漁業支援や漁村活性化に向けた法改正、支援制度創設の方針を示している。これを言葉だけに終わらせてはならない。国の責任によって漁業復活を支えるべきだ。

 福島第1原発の惨事を受け、日本のエネルギー政策はいったん脱原発へと歩みだしたはずであった。それを原発回帰へと導いたのが岸田政権である。原発事故で生活基盤を失った人々を落胆させたに違いない。

 岸田首相の退陣表明を受け、自民党内では総裁選に向けた政策論争が活発化している。この中で、漁業者支援の方策とともに、岸田政権のエネルギー政策を検証する必要がある。その中で脱原発の可能性も模索すべきだ。

 漁業者らの痛みを伴いながら処理水放出が続くのである。それに報いるエネルギー政策の再構築が求められる。