自民党の石破茂新総裁が、衆院を解散し10月27日投開票で総選挙を実施すると表明した。首相には解散権があるとされているが、石破氏はまだ国会で首相に指名されていない。会見で石破氏は「異例のことだが、不適切とは考えていない」と述べた。これは国会軽視、憲法軽視の権力の乱用と言わざるを得ない。
9日の解散が見込まれており、首相指名から8日での解散になりそうだ。この日程では、代表質問のほかに党首討論が精いっぱいではないか。野党が政策を吟味する場がなければ、国民に判断材料を提供することにはならない。野党側の準備が整わないうちに選挙をしようというだけなら、党利党略そのものだ。
衆議院解散は憲法の7条と69条で規定されている。69条は、内閣不信任案が可決されたとき、首相は解散することができるとしている。7条は天皇の国事行為を定めており、衆議院解散もその一つだ。国事行為は内閣の助言と承認を受けて行うとされ、天皇は国政に関する権能を有しないため、事実上の「首相の専権事項」とされてきた。
学説上、7条解散ができるのは、国会が政府提出法案や予算案を否決した時、重要政策を変更する場合などに限るとするのが一般的だ。しかし実際には与党が選挙に有利なタイミングで解散する「大義なき解散」が横行してきた。
こうした解散権の乱用は野党や識者から批判されてきた。立憲民主党は前国会の憲法審査会で解散権の制限を主張したり法案を検討したりした。石破氏自身も69条解散に限るべきだという持論を披露してきた。石破氏は今回、持論を裏切ったことになる。
野党各党は、地震と豪雨被害を受けた石川県能登地方の支援のための補正予算を組むべきだとして予算委員会の開催を求めることを申し合わせた。政治倫理審査会への関係議員の出席や、旧統一教会と自民党の関係についての再調査も求めるとしている。石破氏は応じるべきではないか。
ただ、早期の総選挙でも、これまでのように与党が有利とは限らない。論戦を避け疑惑にふたをして、災害支援を後回しにして「大義なき解散」をしたと批判される可能性があるからだ。裏金問題で処分された議員らを公認するのかどうかも注視されている。
野党にとっても難しい選挙だ。立憲民主党の野田佳彦新代表は、政権交代を目指すと述べてきた。そのためには、十分な候補者を擁立するとともに、できるだけ候補を一本化する必要がある。野党は有権者に選択肢を提供する責任を果たしてもらいたい。
この選挙は、「政治とカネ」でも旧統一教会問題でも真相を明らかにせず、処分も甘く、政治資金規正法改正も不十分に終わった自民党への審判である。そして、国会で十分な議論をせずに党利党略で解散権を乱用する政治への審判でもなければならない。