自民党の石破茂総裁が衆参両院で第102代首相に選出され、石破内閣が発足した。自民党派閥の裏金事件で極まった政治不信を払拭し、信頼を取り戻すことができるのかが新首相にはまず問われる。
国民は物価高にあえいでいる。経済財政政策も懸案だ。大地震と豪雨に見舞われた能登半島の被災者支援にも腰を据え対応せねばならない。
しかし、その姿勢はうかがえない。召集された臨時国会は、石破首相が表明した9日の解散の会期日程で組まれている。与党が示した1日から9日間の日程案に野党が反発したため、臨時国会は首相指名選挙を行う衆参両院の本会議の開会が予定時刻よりも遅れるなど、異例の幕開けとなった。解散ありきの政治日程は国民無視の姿勢だ。
野党側は能登の豪雨被害を受けた補正予算の編成を求めているが、首相は補正予算ではなく予備費で対応するとの考えを示している。国会で被災地支援について議論を経ぬまま、政治日程を推し進めることに被災者や国民の理解は得られないのではないか。
裏金事件を巡る対応にも疑問がつきまとう。首相は総裁選の出馬表明の際に裏金事件に関係した議員について、衆院選で非公認とすることもほのめかしていたが、その後、トーンダウンしている。
野党は裏金問題に関係した議員らを出席させる政治倫理審査会の開催も求めている。そもそも総裁選では全候補が党処分の見直しなどに否定的だった。首相は共同通信アンケートに「新たな事実が判明すれば必要な対応を検討する」としたが、就任後の会見では再調査を否定した。
裏金事件については十分な実態解明はなされていない。党総裁の交代で幕引きを図ることは許されないのだ。
裏金問題への対応は総辞職した約3年間の岸田文雄内閣をどう総括するかにも関わる。岸田首相の在職中は旧統一教会問題も浮上した。臨時国会に臨む石破首相は少なくとも党首討論で「政治と宗教」「政治とカネ」についての考えを明らかにすべきだ。
岸田内閣の評価は、次期衆院選の争点にもなろう。安全保障については、米国との一体化を一気に進め、防衛力の「南西シフト」によって沖縄の基地負担はさらに増すことになった。外交では韓国との関係改善の一方、日中関係は冷え込んだままだ。原発回帰のエネルギー政策はどう評価されるだろうか。日々の暮らしは豊かになっただろうか。子育て施策や少子化対策、地方振興など積み残しも多い。
新内閣を発足させながら、こうした課題に関する十分な議論を経ずに衆院解散に踏み切ることは国民不在と言われても仕方あるまい。総裁選で石破首相は「国民に判断材料を提供するのは新しい首相の責任だ」と述べていた。論戦を制限して解散を急ぐ姿勢を改め、国会でしっかりと判断材料を示してもらいたい。