<社説>きょう衆院解散 「大義」を国民に説明せよ


<社説>きょう衆院解散 「大義」を国民に説明せよ
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 石破茂首相は9日に衆議院を解散する。首相就任から8日での解散は戦後最短だ。

 繰り返し指摘するが、解散の理由が判然としない。石破首相はその大義を問われ「新しい内閣を信任してもらえるのか、主権者たる国民に問うのが大義だ」と説明した。確かに派閥の裏金事件などこれまでの自民党政治の評価はいずれ国民の審判を受ける必要がある。

 しかし、ここまで解散を急ぐ必要はない。野党が言うように、裏金事件以外にも国政の多様な論点について臨時国会でしっかりと審議をしなければ、国民が判断すべき争点が明確にはならないからだ。首相自身が総裁選では国民に判断材料を示す必要があると述べてきているのだから、少なくとも臨時国会の会期を制限して解散を優先するようなことはすべきではなかった。

 早期解散を促す党内重鎮に押され、国民の中の石破人気を含めて「ご祝儀相場」を狙ったものと指摘されている。裏金問題で極まる政治不信の中である。近年は投票率が下がり続けている。若者を中心とした無党派層が足を運ばなくとも、一定の支持層がいる自公両党であれば勝てるとの目算だろうか。

 現内閣は信任たり得ないと国会が判断した場合のいわゆる「69条解散」ではなく、実質的には首相の判断で行われる「7条解散」はこれまでも繰り返されてきた。ただ、7条解散は内閣の独裁につながる可能性があるとも指摘されている。

 能登半島では住民や行政が災害対応に追われている。政府支援が届いていないとの切実な声が上がる。なぜ「伝家の宝刀」を抜くのか、石破首相は9日の党首討論で真摯(しんし)に示してもらいたい。そして、国民に解散の大義を明確に説明すべきだ。

 石破首相は総選挙で現内閣についての国民の信を問うとの考えだ。直接的にはそうだが、2021年から約3年間続いた岸田政権を国民が総括する選挙でもある。

 沖縄に関連しては防衛力の強化など安全保障分野での影響が大きかった。2022年、日米首脳会談でバイデン大統領に防衛力強化と防衛費増額を約束した。同年末には敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などを明記した安保関連3文書を閣議決定した。専守防衛の理念を覆す安保政策の大転換だった。岸田文雄首相は南西地域の陸上自衛隊の倍増を明言し、防衛力の南西シフトをより加速させた。

 安倍、菅、岸田の3政権と距離を置いてきた石破首相がこの間の自公政権をどう総括して今回の総選挙に臨むのか、国民は注視している。

 物価高による生活苦が続く。デフレ脱却にどのような経済政策をとるか。中小企業の経営基盤を守りつつ、さらなる賃上げをどう実現するか。憲法改正の是非も問われよう。各党が判断材料を示してもらいたい。