首里城火災から10月31日で5年が経過した。2026年秋の完成に向け、職人たちによる再建作業が着々と進んでいる。引き続き、県民挙げて再建を支えよう。
火災発生前は年間約280万人が訪れていた首里城は、単なる観光施設ではない。かつて独立国・琉球が存在したことを示す貴重な建築物だ。
22年11月3日に起工式が行われた正殿再建工事は国の事業だが、沖縄のシンボルを再興する事業であり、県が主体性を持って進めるべきである。琉球王府の時代、そして「琉球処分」(琉球併合)や沖縄戦、27年間の米統治という激動の沖縄近代史にも照らし、より良い再建の在り方について議論を重ねたい。
国と県は「見せる復興」を掲げる。21年10月から一般開放された北殿側の城壁沿いの全長140メートルに及ぶ仮設デッキでは、見学客らが再建に向けた作業の様子を見学できる。23年8月に公開された工事現場などを覆う「素屋根」には見学可能な区画があり、職人たちによる復元の過程を間近で見ることができる。
沖縄の建造文化を継承するため、県内の技術者が再建に参加している。補修・復元木材や塗料、瓦などは県産資材を活用している。首里城再建は沖縄で育まれてきたものづくりの技術と建材を後世に残す役割も担っている。
完成後も維持・修復などに専門的な技術が必要だが、技術継承・技術者の育成など長期的な課題も山積している。沖縄側が主体的に関わるよう訴えてきた壺屋陶器事業協同組合は、龍頭棟飾(りゅうとうむなかざり)や鬼瓦の制作に参加している。
完成度を高めるため、陶芸や彫刻など多様な分野の専門家で連携を深めるなどしている。県も職人の育成を力強く支えてほしい。
県によると、24年9月末までに、首里城復興基金と首里城未来基金に寄せられた寄付は計59億1933万円余に上る。現在も個人や企業などからの寄付が続く。残り2年となった再建事業も積極的に公開し、県民の思いを一つにできるよう取り組んでほしい。
火災によって城内に保管、展示されていた美術工芸品も被害を受けた。首里城美術工芸品等管理委員会によると、火災前の美術工芸品1510点のうち、修理が必要なのは364点に上り、慎重な修復作業が必要とされる。
首里城の焼失は1945年の沖縄戦も含め、5度目である。首里城の地下に日本軍の第32軍司令部壕が築かれた沖縄戦では激しい砲撃を受けた。県は第32軍司令部壕の保存・公開に向けた基本方針を定めており、戦争遺跡としての役割も果たすことになろう。
沖縄の歴史を次世代に正しく伝えるためにも、首里城の再建と第32軍司令部壕の文化財指定は必須である。琉球・沖縄文化と平和を願う県民の思いを発信するためにも首里城再建とセットで32軍壕公開に力を尽くしてほしい。