<社説>米兵家族の撤収提言 沖縄にリスク負わせるな


<社説>米兵家族の撤収提言 沖縄にリスク負わせるな
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 基地の集中は無辜(むこ)の住民に多大な被害を及ぼす恐れがある。そのことを示す論文だ。

 米海兵隊現役幹部が2023年12月、米海軍協会が発行する雑誌「プロシーディングス」に「第三海兵遠征軍を戦闘態勢に」と題する論文を投稿した。その中で、中国が関与する有事となれば、攻撃対象となる沖縄から隊員の家族を本国に撤収させることを提言している。米軍内部にも、有事の際に沖縄が激しい戦場となる危険性があるとの認識が広まっているようだ。

 沖縄には在日米軍専用施設の7割が集中、嘉手納基地は米空軍の極東最大の拠点だ。日本政府は威圧的行動を強める中国を念頭に、自衛隊の「南西シフト」を進めており、県内での自衛隊増強が急速に進んでいる。

 有事となれば、軍事施設が集中する地域が攻撃対象となることは火を見るより明らかだ。沖縄戦の経験や、現在世界各地で起きている紛争でも民間人の死者が多数に上る。

 14年に集団的自衛権の行使容認が閣議決定された。22年の安保関連3文書の改定で敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決め、翌年に日米は「効果的な運用へ協力を深化させる」と確認した。民間空港・港湾を使った大規模な日米共同統合演習もたびたび実施されている。日米の軍事一体化によって、有事に沖縄が巻き込まれる恐れは高まっていると言えるだろう。

 米兵家族撤収の提言では、米軍施設と家族住宅の近さをその理由の一つに挙げている。しかし米軍関係者の住宅に限ったことではなく、周辺の住民も同様だ。騒音などの基地被害に遭っている住民に、さらに攻撃目標となるリスクを背負わせることにほかならない。基地の整理縮小が沖縄県民を守ることにつながる。そのことを日本政府は認識すべきだ。

 この論文では、有事には家族を避難させることに力が割かれ、戦闘態勢をとるのが遅れると指摘している。その上で先島地域を拠点の一つとし、「米軍のインフラを整備することで、有事における継続的な展開が可能となる」との考えを示している。

 米兵の家族らは撤収させる一方で、有事の際に先島の自衛隊施設を共同使用したいとの意向が読み取れる。垣間見えるのは、有事の際は、住民の安全よりも、沖縄を攻撃拠点としようという冷徹な軍事的視点だ。日米安全保障条約第5条は米国による防衛義務を定めているが、先島を有事の拠点と位置付け、沖縄を戦場とすることが果たして日本を防衛することになるのか。

 先の沖縄戦では、沖縄は日本本土防衛の「捨て石」とされた。軍事の論理が優先され、沖縄を再び「捨て石」とさせてはならない。米中対立をいたずらにあおるような米軍、自衛隊施設の機能強化ではなく、全ての住民が安全に暮らせるよう、日米は外交努力を優先させるべきだ。