問題発言を撤回したからといって、なかったことにはならない。今度こそ辞任すべきである。
稲田朋美防衛相が、東京都板橋区で開かれた都議選の自民党候補を応援する集会で演説し「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と訴えた。
憲法第15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定している。公職選挙法は、公務員の地位を利用した選挙運動を禁止している。さらに自衛隊法61条は、選挙権の行使以外の自衛隊員の政治的行為を制限している。
稲田氏は、1人の自民党員としてではなく、防衛相という自身の地位を語り、防衛省と自衛隊が組織を挙げて所属政党の公認候補者を支援すると呼び掛けたようなものだ。防衛省や自衛隊の政治利用と受け取られかねず、法に抵触する恐れがある。防衛相としての自覚と資質に欠ける。
稲田氏は発言を撤回したが「これからも職務を全うしたい」と述べ、辞任する考えのないことを強調した。安倍晋三首相の任命責任は重大だ。もはや辞任ではなく罷免すべきだ。
ところが首相は、稲田氏の続投を指示した。菅義偉官房長官は「誤解を招くような発言をすべきでない」と苦言を呈しながら「誠実に職務に当たってほしい」と述べた。行政の中立性を逸脱するような発言をしても続投させるのは、「1強」のおごりそのものだ。国会を開いて説明する必要がある。
今回が初めてではない。稲田氏は3月、学校法人「森友学園」の問題で学園側との関係を問われ「顧問弁護士だったこともないし、法律的な相談を受けたこともない」と否定。その後、民事訴訟の原告代理人弁護士として出廷したことを示す裁判所作成の記録が明らかになると「自分の記憶に自信があったので確認せず答弁した」として撤回、謝罪に追い込まれた。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報に「戦闘」との表現があった問題で「法的な意味での戦闘行為はない」と繰り返した。憲法9条の問題になるのを避けるため「武力衝突という言葉を使っている」と説明し、野党から「戦闘の事実を隠蔽(いんぺい)していると」批判を浴びた。
稲田氏は首相にとって政治信条が近い「秘蔵っ子」と目されている。第2次安倍政権が発足すると、当選3回の稲田氏を行政改革担当相に抜てきし、政調会長、防衛相と重要ポストを与え続けてきた。閣僚としての資質に欠ける発言を繰り返しても、稲田氏を擁護してきた。これでは内閣の私物化である。
共同通信による6月の全国世論調査で、安倍内閣の支持率が急落した。不支持の理由は「首相が信頼できない」が最も多かった。強引な政権運営に対する批判を重く受け止めるべきだ。