<社説>残業代ゼロ法案 働く者の命守れるのか

 働く者の命や権利を守る労働組合として、果たして妥当な判断だろうか。「残業代ゼロ法案」として批判されてきた制度の導入を、連合が条件付きで容認した。

 この方針転換で法案成立の公算が大きくなり、長時間労働や過労死に拍車が掛からないか、強く懸念する。連合は働く者を守る原点に返り、容認方針を撤回すべきだ。
 今回の制度は、高収入の一部専門職を残業代支払いなどの労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」が柱だ。年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職が対象で、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が支払われない。
 2015年に閣議決定されたが、野党や過労死遺族からの反対が根強く、2年以上も塩漬けになっていた。連合も強く反対してきたが、健康確保対策の強化という条件を付ける形で容認に転じた。唐突感が拭えず、政治的駆け引きに屈したとしか思えない。
 連合は、政府から水面下で働き方改革の残業規制と抱き合わせでの受け入れを迫られたという。このため、労働基準法改正案が現行案で成立するよりは、修正という形で実を取った方がいいと判断した。
 連合の神津里季生(りきお)会長が安倍晋三首相と面談して修正を求め、政府は応諾した。修正点は「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日取得」を義務付けた上で、「勤務間インターバルの確保」「連続2週間の休暇取得」「臨時の健康診断」などの選択肢から労使に選ばせるという内容だ。
 しかし、この条件だけでは、働き過ぎを助長するという法案の問題点は改善できない。会社から過大な成果や仕事を求められる心配があり、健康診断さえ受ければ際限なく働けるともなりかねない。長時間労働の歯止めになるのか、極めて疑わしい。
 さらに、連合自体が従来批判してきたように、「残業代ゼロ」制度がいったん導入されると、規制が徐々に緩められていく恐れは残る。実際、経済界からは対象拡大のために年収要件を下げるべきだとの声が既に出ている。
 連合の「変節」には内部や傘下労組から批判が噴き出している。政権に接近し、労働者の立場をなおざりにしたともいえる動きは不可解だ。
 今回の労基法改正案には、決められた時間を超えて働いても残業代が支払われない「裁量労働制」の対象拡大も盛り込まれている。長時間労働対策に逆行する法案だ。
 過労死や長時間労働の解決策は喫緊の課題だ。電通の違法残業事件を機に政府も重い腰を上げ、働き方改革に取り組むようになった。
 だが、働き方改革関連法案と「残業代ゼロ」法案を国会で一括審議する方針だ。相いれない法案同士をセットで通すやり方はおかしい。働く者を守るため、廃案を求めていくことこそが労働団体としての連合の本分ではないか。