<社説>日銀物価目標先送り アベノミクスは破綻した


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 繰り返し業績見通しを修正する企業があれば、市場はどう見るか。環境の変化が激しい時代とはいえ、経営陣の能力を疑い、最悪の場合は市場から閉め出されるだろう。

 日本銀行の場合はどうか。黒田東彦総裁は2013年の就任以来、物価上昇率2%の目標達成時期を繰り返し先送りし、ついに6度目の延長を決めた。
 複数の識者から「非現実的」と酷評される物価上昇率目標が達成できないことは明らかだ。同時に金融政策に依存したアベノミクスの破綻を意味する事態でもある。
 物価上昇率目標に関し、日銀が説明してきた達成時期は「15年度には」から始まり「15年度を中心とする期間」「16年度前半ごろ」「17年度中」「18年度ごろ」と変わり、現時点では「19年度ごろ」としている。振り返ると、見通しの甘さは歴然だ。
 黒田総裁は会見で「物価は上がりにくい」とするデフレ心理が家計や企業に根強いことへの懸念を示した。さらに家計の節約志向に対応して企業が値上げに慎重な姿勢を崩せないことがあると分析してみせた。
 ではなぜ家計の節約志向が続くのかを日銀には考えてもらいたい。景気は拡大傾向にあり、雇用環境は改善したといわれる。だがその恩恵が働く人々全てに行き渡っていないからではないか。
 物価上昇を必要としたのは、物価の下落が続き、景気が良くならないデフレからの脱却を目指すことが目的だった。デフレが続けば企業の利益が減り、賃金も上がらずお金が使われないという悪循環に陥る可能性がある。
 日銀は国債を大量に購入することで世の中に流通するお金の量を増やし、景気を刺激して物価を上げる政策を取った。これによって企業の利益が増え、賃金も上がり、消費に回るというもくろみだ。
 この間、消費税増税による落ち込みや原油価格下落による物価の下落など外的要因があったとはいえ、実際には日銀の政策が机上の空論だったことは明らかである。
 家計に節約志向が強いのは結局、手元にお金がない、もしくはあっても将来の備えに取っておきたいからだ。雇用環境が改善したとはいえ、パート労働者の割合が増え、賃金水準を押し下げていることは政府自身が経済財政白書で指摘している。失業率や有効求人倍率などの数字が改善したとはいうものの、雇用の現場ではその実感はない。
 いくらお金の流通量を増やしても、社会保障制度などへの不安などがある限り、人々が消費に向かうことはない。
 政府が取り組むべきことは非現実的な理論や政策ではなく、将来への不安を取り除くことだ。時間はかかってもその方が近道だからだ。
 破綻したアベノミクスにこだわる必要はない。社会保障改革や財政再建などに政府はかじを切り直すべきだ。