政治家の劣化を露呈した。発言を撤回して済む話ではない。
麻生太郎副総理兼財務相が、横浜市で開いた麻生派研修会の講演で「(政治家を志した)動機は問わない。結果が大事だ。何百万人を殺したヒトラーは、いくら動機が正しくても駄目だ」と述べた。
ナチス・ドイツの独裁者を擁護しているとも受け取られかねない。閣僚としてだけでなく政治家としての適性を疑う。かつて首相を務めたこともある人物だけに影響は大きい。麻生氏は直ちに議員辞職すべきだ。安倍晋三首相の任命責任も問われる。
麻生氏は「例示として挙げたことは不適切であり撤回したい」として発言を撤回するコメントを発表した。しかし今回の発言が、うっかり失言したとは考えにくい。
麻生氏は4年前もドイツのナチス政権時代に言及して「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気が付かない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」と発言して批判を浴び、撤回した経緯があるからだ。
ヒトラーが持っている反ユダヤ主義という動機が、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を引き起こしたことは歴史的事実だ。
ヒトラーの人種思想によると、最高・最良の人種はアーリア人種とされる。アーリア人種の中でゲルマン人、とりわけドイツ人には特別の価値があるとした。これに対して「ユダヤ人は価値の低い人種であるのみならず、アーリア人種の壊滅を目的としている『敵対人種』。アーリア人に敵対しているのだから徹底的に抹殺されねばならない」(「ナチス・ドキュメント」)という、完全に倒錯した人種差別の発想である。
麻生氏発言は、後に撤回したものの反ユダヤ主義という「動機」は正しかったと言っているのに等しいのである。
麻生氏は「私の言った真意と異なった話が伝えられているのでこういう騒ぎになった」と不満をにじませた。
話をすり替えてはならない。騒ぎになったのは誤った発言をしたからである。本当は反省していないが、騒ぎになったから発言を撤回したのだろうか。
おそらく欧米でこのような発言をすれば、発言撤回だけでは済まないだろう。
米国では、人種差別によって社会が分断されている。バージニア州で開かれた白人至上主義団体の集会で、反対した市民との衝突で死傷者が出た。米国第一主義を掲げるトランプ大統領が、双方に非があると発言し、人種差別団体と抗議の市民を同列視するような認識を示した。このため与党からも大統領としての資質が疑われた。
安倍首相は内閣改造で、資質を不安視された法務相や防衛相などを一掃した。しかし、失言は収まらず今度は副総理だ。小手先の対応では国民は納得しない。