<社説>新基地石材海上搬入 埋め立て承認撤回の時だ


この記事を書いた人 琉球新報社

 かけがえのない自然環境の破壊に続く暴挙である。住民生活の破壊をもいとわない国に強く抗議する。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う新基地建設工事で、沖縄防衛局は石材の海上搬入を開始した。積み出し港がある国頭村奥では砕石を積んだ多くの大型トラックが行き交った。
 189人が暮らす奥は4割が高齢者。普段は車の往来も少ない静かな集落である。大型トラックが頻繁に走れば、住民生活に多大な影響が出ることは目に見えている。
 実際、88歳の住民はこれまでミカン畑に行く際、軽トラックでゆっくり走っていたというが「ダンプカーが通るから、もう危なくて畑も行けない」と話している。85歳の住民は大型トラックの多さを挙げて「家を出るなということか。年寄りは死ねということか」と目に涙をためて憤っている。
 奥港はかつて陸上交通が不便だった国頭村の中で、住民生活に欠かせない海上交通の要だった。那覇や与那原、与論島などへ材木、まき、木炭などを運び、復路は日用雑貨や食料品、家畜が運ばれた。
 その生活の港が、住民を犠牲にして新基地建設のための石材積み込みに使われることは断じて認められない。
 憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、国にその実現を求めている。13条で保障された幸福追求権は「公共の福祉に反しない限り、最大の尊重を必要とする」と明記されている。
 沖縄だけに過重な基地負担を押し付けることは、明らかな差別である。抑止力どころか、米軍基地が存在していることで、沖縄は北朝鮮ミサイルの標的にされているのである。新基地を含め、在沖米軍基地が「公共の福祉」であるはずがない。
 懸念されるのは、石材の海上運搬を目的とした奥港の岸壁使用を許可した翁長雄志知事への批判がくすぶっていることである。
 県は「法律に基づいて判断すると、不許可にできる理由がなかった」としている。つまり、公約に反することにつながることであっても、行政は法律に従う以外にないということだ。県が恣意(しい)的に法律を解釈するようなことがあれば、岩礁破砕許可が切れたにもかかわらず「許可申請は必要ない」と強弁する国を批判することはできない。
 知事に対する批判が高まれば、国の強硬姿勢を勢いづかせることにもなりかねない。一方で、知事は新基地建設を阻止するためにも埋め立て承認の撤回を急ぐ必要がある。
 知事は8月の県民大会で「県の再三の要請にも行政指導にも応じず、工事を強硬に推し進める状況は、必ず埋め立て承認撤回につながっていく。撤回の時期を私の責任で決断する」と述べていた。決断する時期は既に来ている。埋め立て承認撤回の時だ。