<社説>宮古陸自駐屯地着手 住民の声を受け止めよ


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 何のために住民を集め、説明会を開いたのか。住民を愚弄(ぐろう)する姿勢は看過できない。

 防衛省は宮古島市への陸上自衛隊配備計画説明会の翌日、駐屯地建設に向けた造成工事に着手した。説明はするが、住民の意見は考慮しないとの宣言に等しい。説明会は理解を得ることが目的ではなく、着工ありきだったということである。
 造成に向けた準備工事が始まった際、反対住民から「説明がない状態で工事が進むのは納得できない。せめて説明会をするまでは工事を止めてほしい」との求めがあった。
 それに応じたとでも言いたいのだろうか。断じて認められない。工事開始前日の説明会開催はあまりに不誠実だ。
 沖縄防衛局は、駐屯地建設地に近い千代田部落会と野原部落会で説明会を開いた。両部落会は昨年、それぞれ陸自配備の反対を決議している。
 住民からは工事に伴う生活環境の悪化や、市に対する許可申請に不備があるとして工事中止を求める声が上がった。住民の多くは駐屯地建設に納得していないのである。住民の声を真摯(しんし)に受け止め、住民の理解が十分得られるまで着工は見合わせるべきだ。あまりに乱暴である。
 懸念されるのは、住民同士の分断である。反対する住民、複雑な心境で土地の提供に同意した駐屯地建設地の地権者、賛成する住民が地域にいる。住民間で溝が広がっているという。
 平和に暮らしてきた地域住民が、陸自配備によって分断されることがあってはならない。本格工事が始まれば、1日当たり最大200台の大型トラックが往来する。
 住民の日常生活への影響は計り知れない。にもかかわらず、住民の理解を得ぬまま着工したのである。住民軽視も甚だしい。
 防衛省は、中国をにらんだ南西諸島の防衛力強化を目的に部隊配備を進めている。
 宮古島市には、計700~800人規模の警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊を配備する。与那国町では陸自の沿岸監視隊が昨年発足し、石垣市では、500~600人規模の警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊の配備を計画している。
 南西諸島への部隊配備は、「戦争放棄」「交戦権の否認」をうたう平和憲法の精神に明らかに反する。
 中国の領海侵犯などに対しては、粘り強い外交交渉で解決することが日本の取るべき道である。先島への自衛隊配備はかえって緊張感を高める効果しかない。対峙(たいじ)することで、偶発的な衝突が起きる恐れさえある。
 そもそも、陸自駐屯地は観光の島でもある宮古島にはそぐわない。近隣国との人の往来を増やすことに力を入れることが最も有効な安全保障になる。交流の活発化によって島は大きく飛躍する。国境に近い島に基地を置くことほど、愚かなことはない。