<社説>札幌支援住宅火災 「終のすみか」ある社会を


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 札幌市で生活保護受給者の自立支援を目的とする共同住宅が全焼し、11人が死亡した。入居者の大半は高齢で身寄りもなく、中には介助を必要とする人もいた。

 困窮者や高齢者が入居する施設で火災が相次ぎ、犠牲が出ている。その度に施設の防災設備の不備や避難しにくい建物の問題が指摘されてきた。
 もちろん、安全対策の詳しい検証は必要だ。しかし、そもそも生活が苦しい高齢者に住まいが確保されているとは言い難い状況がある。安全な住まいをどう確保するかを考えねばならない。
 今回の札幌の共同住宅も民間の会社が旅館だった木造の建物を借りて運営し、住居や就職先が見つかるまで一時的に入居する場とされていた。家賃は3万6千円。夜間は職員はいなかった。火災報知器はあったがスプリンクラーはなかった。
 厚生労働省によると、生活困窮者向けの「無料・低額宿泊所」は全国530カ所以上あり、約1万5千人が利用している。一方、無届けの施設も1200カ所以上確認され、約1万6500人が身を寄せる。火災が起きた札幌の住宅は無届けの一つだった。
 困窮者を支援する団体の多くは資金的余裕がなく、防火対策や人的配置を手厚くすれば家賃にはね返る。厚労省は宿泊所について、防火態勢や個室面積の最低基準を定めるなど規制を強化する方針だが、無届け施設の実態把握を急がねばならない。
 15年5月には川崎市で、宿泊者の大半が生活保護受給者だった簡易宿泊所の火災で11人が亡くなった。17年8月には秋田県横手市で精神障がい者を多く受け入れていた木造アパートが全焼し、5人が死亡した。惨事が相次ぐ。
 ただ、困窮者向けの施設を必要とする人はこれからも増えるだろう。住まいのない困窮者は首都圏を中心に、03年の2万5千人余から16年には約6200人まで減少した。しかし、65歳以上が約4割を占め、10年以上ホームレス状態の人も3割を超える。高齢化と長期化が大きな課題だ。
 住まいを失うと職探しや年金受給手続きなどが困難になる。賃貸住宅を借りようにも高齢者は孤独死や家賃滞納のリスクがあるとして敬遠される傾向がある。介護施設にはなかなか入居できない。
 日本の困窮者対策は就労支援に重点が置かれ、住居確保への支援は乏しいとの指摘がある。高齢や病気で働くことが難しい困窮者は増えている。安全対策への規制を強化する一方で、住まいを手当てするための財政支援や見守りなどへの人的支援も必要だ。国は昨年から高齢者の入居を拒まないなどを条件に、自治体が空き家の改修費用や家賃の一部を補助して、住まい確保につなげる制度を始めた。こうした取り組みを進め、社会全体で「終(つい)のすみか」を考えないと悲劇はなくせない。