<社説>高校新指導要領案 愛国主義的な教育避けよ

 高校の学習指導要領の改定案を文部科学省が公表した。「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通し、生きる力を育む」ことを掲げ、2022年度から実施される。科目目標に「日本の国土と歴史への愛情」「自国を愛し」などの記述が盛り込まれた。愛国主義的な教育を進めるとの懸念が拭えない。

 学習指導要領は全国どこでも一定水準の教育を受けられるようにするため、児童生徒に教えなくてはならない最低限の学習内容などを示した教育課程の基準だ。
 改定案では領土問題が強調されている。「わが国の領土など国土に関する指導の充実」とうたい、韓国や中国との間で領有権を巡り意見の相違がある竹島、尖閣諸島について、地理歴史で「固有の領土」と初めて明記した。
 現行指導要領では日韓関係などに配慮して「日本の領域を巡る問題に触れる」との記載にとどめ、地域の名称は示していなかった。ところが今回の改定では「地理総合」で竹島や尖閣諸島は固有の領土であると扱うと規定した。
 さらに「歴史総合」で近現代史の中で「竹島、尖閣諸島の編入に触れる」と記した。公民に新設された「公共」では日本が竹島の問題の平和的解決に向けて努力していることや、尖閣諸島には領有権の問題がないことを取り上げるとしている。複数科目で取り上げるほど領土問題に力を入れる必要があるのだろうか。
 領土教育の重視は安倍政権の意向が強く反映されている。14年1月に下村博文文科相(当時)は教科書作成指針となる指導要領解説書の見直しに踏み切り、竹島、尖閣諸島が指導要領本体の改定に先立つ形で盛り込まれた。このため近年の地理歴史や公民の教科書で竹島、尖閣諸島を取り上げる流れが既に定着している。時の政権の政治方針に沿う形で教育が左右されることはあってはならない。
 さらに今回の改定案では大幅に科目が再編され、記載量も増えた。学習指導要領の「大綱」との位置付けが薄らぎ、授業のマニュアルと化してはいないか。果たして生徒がついていけるか疑問だ。
 日本史と世界史を垣根なく教える初の科目として「歴史総合」が登場した。日本と世界の歴史を関連付けて教える科目導入は初めてで、教える側に技量や見識が求められる。教員が大学で学んだ専門分野の違いで教え方に差が出ないような配慮が必要だ。
 選挙権年齢の18歳以上への引き下げを受け、政治参加や労働問題を扱う必修科目「公共」が新設された。憲法改正など日々の政治課題も教材にして議論を深める機会になればいい。教員が「政治的に偏向」していると批判を受けないようにしたい。
 今回の改定案の目標は「主体的・対話的で深い学びの実現」だ。排外主義につながる愛国主義的な教育を進めることを目的にしてはならない。