<社説>事故通報義務違反 米軍に訓練する資格ない


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 「はらわたが煮えくり返るようだ」「たがが緩んでいると言わざるを得ない」。翁長雄志知事の言葉が県民の怒りと問題の深刻さを端的に示している。

 米空軍嘉手納基地に所属するF15戦闘機が飛行中に重さ約1・4キロのアンテナを落下させた。ところが、日本政府への通報は6日後だった。なぜ、これほど通報が遅れたのか。理解できない。
 日米両政府は1997年3月の日米合同委員会で、在日米軍による事件・事故の日本側への通報体制の改善策で合意し、新たに通報基準をまとめた。
 合意した通報手続きには、航空機などの事故以外に劣化ウラン弾誤射のような米側に明確な通報責任を規定していなかった事故や、日本国民の安全や環境に影響を及ぼす可能性がある事件・事故についても、速やかに日本側に通報する義務を明記している。
 今回の米軍の対応は迅速通報の義務に違反する。落下事故も問題だが、それを即座に通報しないことも大きな問題である。容認できない。
 通報の流れはこうだ。事件・事故が発生した場合、それに責任を有するか、察知した司令官が在日米軍司令部に情報伝達し、同時に地元防衛局に通報する。その後、防衛局が関係自治体に連絡する。
 この手順に沿って通報することは難しいことではない。米軍はなぜ、できないのか。
 相次ぐ部品落下事故などは米軍のたがが緩んでいる証しである。日本側に通報するまで6日もかかったのは、米軍の組織が著しく劣化していることの表れである。
 通報体制の整備は96年12月、在日米軍岩国基地所属のFA18戦闘攻撃機が那覇市沖の海上に約450キロの爆弾を投棄した事件の通報が2日後だったのがきっかけである。
 今回は2日どころか、6日後である。小野寺五典防衛相は米軍から防衛省に迅速な通報がなかったことに「戸惑っている」と述べた。その言葉から透けて見えるのは、予想外の通報遅れに防衛省トップがどう対処していいのか分からず、まごつく姿である。
 戸惑っている場合ではない。毅然たる態度で米軍に強く抗議する責任があることを強く自覚してもらいたい。
 防衛省は事故から6日後に落下を把握したが、嘉手納町などへの連絡は8日後だった。防衛省は地元自治体への通報遅れについて「事実関係を確認した上で情報提供した」としている。
 日米合意の留意事項には「日米双方は時刻、曜日、日付にかかわりなく、事件・事故通報を迅速に行う」ことが明記されている。防衛省の対応はこれに反する。
 相次ぐ部品落下事故などは米軍の自浄能力欠如が原因だ。加えて通報体制もほころんでいる。米軍が日米合意の通報手続きを形骸化させた責任は重大である。県内で訓練する資格はとうにない。