<社説>捜査に米軍非協力 法治国家と言えるのか


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 昨年4月に米軍キャンプ・ハンセン内の安富祖ダム建設現場で米軍の銃弾が見つかり、車両やタンクが損傷していた被弾事件で、県警は3月1日に被疑者不詳のまま軽犯罪法違反容疑で書類送検した。被疑者が不詳のため、当然ながら那覇地検は不起訴処分にした。

 実態が解明されぬまま、約1年にわたる捜査は事実上終結した。捜査を阻んだ最大の元凶は日米地位協定だ。公務中の事故の第一次裁判権が米側にあるとの規定を根拠に、米側から捜査協力を十分に得られなかったためだ。
 被疑者を特定できなかった一番の要因は、最大の物証だった銃弾の提供を米軍が拒んだからだ。県警は事案把握直後に基地内の現場の立ち入り調査を実施した。米軍は立ち入りには同意した。県警は調査で流弾2発を確認している。米軍に回収した弾丸の提供を求めたが拒否された。
 米軍は発見された弾丸は海兵隊員がハンセン内で実弾射撃の演習中に発射したものであることは認めている。だからこそ米軍は流弾の予防策として、発射方向を変更するなどの運用規則を修正した。
 つまり流弾事件の被疑者は海兵隊員の中に存在することは極めて濃厚だ。その捜査を米軍側が阻んでいる。地位協定という仕組みこそが、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪を助長させているとしか思えない。
 流弾事件が発生した当時、基地内の安富祖ダム建設現場には工事関係者がいた可能性がある。日本人の生命を脅かす危険性が十分あった。実際に車両が被弾しており、日本側の財産に被害が生じている。それにもかかわらず、軽犯罪法違反の捜査が立件できない。これで法治国家と言えるのか。
 米軍関係の事案で被疑者不詳で立件できなかった事例はこれだけではない。2008年に金武町伊芸区の民間地で発生した流弾事件では、米軍は発生から1年後になって初めて県警の立ち入り調査を認めた。今回と同じく銃弾の提供を拒んだため、県警は被疑者不詳で書類送検するほかなく、不起訴となった。
 04年に起きた米軍ヘリ沖国大墜落事故では、県警は米軍からヘリの機体の差し押さえを拒否された。地位協定17条の付属事項で米軍財産の米軍同意の壁に阻まれたためだ。さらに米軍はヘリに搭乗していた兵士の氏名も明らかにしなかった。このため県警はここでも被疑者不詳で書類送検し、不起訴になっている。
 16年12月に起きた名護市安部の海岸での垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの墜落事故も捜査は難航している。第11管区海上保安本部が航空危険行為処罰法違反容疑での立件を目指しているが、米軍は機体を検証前に持ち去るなど、捜査協力を拒んでいる。
 いつまで泣き寝入りを強いられるのか。日米地位協定の抜本的な改定なくして米軍駐留などあり得ない。