被害者への配慮に欠ける傲慢(ごうまん)な対応をとり続けた揚げ句の醜態だ。
週刊誌が報じた財務省の福田淳一事務次官による女性記者へのセクハラ疑惑を巡り、麻生太郎財務相は福田氏を事実上更迭した。当然であり、むしろ遅過ぎた。麻生氏も任命責任をとって退くべきだ。
疑惑について財務省は省内で調査を尽くさず同省の顧問弁護士に調査を任せている。身内に頼むのでは公平性が保てない。調査は中立の第三者機関に委ね、疑惑を徹底究明すべきだ。
福田氏が提訴も辞さないと発言している中で、財務省は報道各社に女性記者に名乗り出るように呼び掛けたことは恫喝(どうかつ)に等しい。記者は職業倫理上、取材源の秘匿を求められる。財務省の要求は受け入れられない。
セクハラ疑惑は先週発売の週刊誌が報じた。福田氏は女性記者らを夜の飲食の席にたびたび呼び出し「抱きしめていい?」「浮気しよう」などとセクハラ発言を繰り返したという。福田氏の発言とされる音声も週刊誌のニュースサイトで公開された。
麻生氏は音声について「聞いて福田かな、という感じはした」と半ば認めざるを得なかった。しかし声紋鑑定をしようとしなかった。
セクハラ疑惑の相手女性が名乗り出なかった場合の対応を問われると「取り扱いのしようがない」と開き直った。
安倍晋三首相は、セクハラ疑惑や公文書管理など一連の問題に関し「私自身が一つ一つの問題について責任を持って全容を解明し、うみを出し切っていく決意だ」と述べた。だが麻生氏に疑惑を徹底解明する気はないようだ。被害者は声が上げづらいと指摘されて「福田の人権はなしってわけですか」と、言い返した。人権感覚を疑う発言であり、もはや大臣の職を辞すべきだ。
野田聖子女性活躍担当相は財務省が同省の顧問弁護士に調査を委託したことに関し「セクハラ被害者は家族にも相談できないのが現実だ。あえて加害者側の関係者である弁護士に説明することはできないのではないか」と語った。当然の批判だ。
自民党内には「女性が接客する店での発言の可能性もある」と福田氏擁護論が出ているが、言語道断である。
厚生労働省によると、セクハラ認定は職場だけでなく、取材先や取引先と打ち合わせをするための飲食店なども含まれる。セクハラは個人の尊厳を不当に傷つける行為である。女性が接客する店であれ、セクハラ発言をしたのなら社会的に許されない。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは「(日本では)権力者が性的な違法行為についての主張を真剣に受け止めない」と伝えている。米ワシントンで19日に開幕する20カ国・地域(G20)財務省・中央銀行会議に麻生氏が出席する資格はない。