総理大臣を務めた政治家の暴言に、開いた口がふさがらない。
麻生太郎財務相は8日の会見で、福田淳一前財務事務次官のセクハラ問題に関連し「『セクハラ罪』という罪はない」との持論を改めて主張した。訪問先のマニラで行った4日の会見で同様の発言をし、抗議の動きが広がっていた。8日の会見で「事実を述べただけだ」と答えた。
一方で「親告罪であり、傷害罪などと違って訴えられない限りは罪にはならない」と、つじつまの合わない説明も繰り返した。
セクハラは大したことではないと考えているのだろうか。力関係を背景に弱い立場の人に対し不快な思いをさせればセクハラだ。明らかに人権侵害である。
麻生氏の発言は、セクハラの被害者を傷つけるものであり、見過ごすことはできない。発言の撤回を求めるとともに、責任を取って大臣を辞任すべきだ。
1997年に改正された男女雇用機会均等法は、職場での女性に対するセクハラ規定を設け、事業主に被害防止や相談窓口の設置など体制整備を求めている。
均等法は職場でのセクハラについて「労働者が意に反する性的な言動をされ、何らかの対応をして労働条件で不利益を受けたり、性的な言動で就業環境が害されたりすること」と定義している。
「性的な言動」には、性的内容の情報を広めること、性的な冗談やからかい、食事やデートに執拗(しつよう)に誘うことも含まれる。上司や同僚、取引先や顧客も対象となる。
財務省は福田氏によるセクハラ行為があったと認定し、6カ月の減給20%の懲戒処分にしたはずだ。
それなのに麻生氏は「役所に迷惑を掛けたとか品位を傷つけたとかいろんな表現があるが、(そういう理由で)処分した」と述べた。セクハラを明確に認めない麻生氏の発言は均等法の趣旨に反する。
野田聖子女性活躍担当相は麻生氏の発言を「セクハラに対する知識が得られない世代だ。私たちの感覚とは全く違う」と批判した。当然だ。
海外では、セクハラで訴えられた人は自ら問題とされる言動について合理的に説明できなければ、権力の背景となるポストを去るのが常識となっているという。
財務省の調査に対し、福田氏はセクハラを否定する合理的な説明ができなかった。辞任は当然である。「品位を傷つけた」という理由は、問題の本質を曖昧にする。そもそも調査が不十分なまま打ち切ったのはおかしい。
安倍政権は本当に女性が活躍する社会を目指しているのだろうか。「セクハラ罪」はないとの強弁を許さないために、再発防止のための法整備に、罰則規定を盛り込むなどの具体策が必要だ。さもなければ女性活躍は掛け声倒れに終わってしまう。