<社説>獣医大新設「いいね」 嘘をついているのは誰か


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 安倍晋三首相と愛媛県の言い分が食い違っている。こんな不透明な状況を、これ以上放置することは許されない。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、愛媛県の中村時広知事が国会に提出した交渉経緯に関する新たな文書で、安倍首相の国会答弁が虚偽だった疑いが強まった。
 安倍首相は、加計学園の獣医学部構想を知ったのは「2017年1月20日」と国会で明言してきた。
 だが、新文書には15年2月25日に加計孝太郎学園理事長が国際水準の獣医学教育を目指すと説明し、安倍首相は「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とコメントしたと記されている。
 安倍首相は「ご指摘の日に加計理事長と会ったことはない。加計氏から獣医学部新設について話をされたこともない。私から話をしたこともない」と否定。加計学園も「理事長が15年2月に総理とお会いしたことはございません」とのコメントを出した。
 愛媛県が捏造(ねつぞう)する理由はない。加計学園が説明していないことをわざわざ記録するだろうか。愛媛県幹部は「文書は、職員が学園側から聞き取った内容を正直に書いている。脚色する必要はない」と述べている。
 安倍首相の言う通り、面会日や「いいね」のコメントが事実でないならば、加計学園側が愛媛県に対して虚偽の説明をしたことになろう。
 愛媛県がこれまでに公表した文書の内容は、政府の説明を覆すものが多く、信ぴょう性も高い。柳瀬唯夫元首相秘書官が加計学園側との面会を認めるきっかけにもなった。愛媛県文書の記載内容は、首相答弁よりも信用できると多くの国民は受け止めているのではないか。
 柳瀬氏は「本件は首相案件」という自身の発言について「首相との言葉は使わないので違和感がある」と否定していた。だが、新文書には柳瀬氏が「獣医学部新設の話は総理案件になっている。なんとか実現を、と考えているので、今回内閣府にも話を聞きに行ってもらった」と発言したとの記載がある。
 柳瀬氏が「首相案件」を否定する根拠は乏しくなった。「なんとか実現を」との発言は「加計ありき」で進める姿勢にほかならない。
 新文書の内容が事実ならば、安倍首相のこれまでの説明は虚偽ということになる。柳瀬氏の国会での説明も事実を語っていないことになる。
 安倍首相は「うみを出し切る」「丁寧な上にも丁寧に説明する」「真摯(しんし)に説明責任を果たす」などと何度も繰り返してきた。だが、言葉とは裏腹に強弁で押し通す姿勢に終止している。
 真相を明らかにするには加計理事長をはじめ、柳瀬氏、中村知事らの国会招致が不可欠だ。嘘(うそ)をついているのは誰かを突き止めない限り、国民の政治不信はますます拡大する。