<社説>米朝首脳会談中止 対話の扉閉ざしてならぬ


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 米ホワイトハウスは、トランプ大統領がシンガポールで6月に予定されていた史上初の米朝首脳会談を取りやめると発表した。

 トランプ氏は北朝鮮側の「敵対的な言動」を理由に挙げた。北朝鮮が核実験場を爆破する「非核化」をアピールした直後だけに、対話の機運がしぼんでしまった。
 会談中止により武力衝突の危機を招いてはならない。今回は中止となったが、朝鮮半島の非核化に向け対話の扉を閉ざしてはならない。
 北朝鮮は米国との関係正常化を条件に非核化に応じると表明してきた。だが、保有核兵器の放棄には踏み込んでいない。米国が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」に抵抗していた。
 今月上旬に開かれた2度目の中朝首脳会談で金正恩朝鮮労働党委員長は、非核化の行動ごとに制裁緩和などの見返りを得る「段階的措置」が必要と強調した。中国の習近平国家主席は「同じ社会主義国として団結と協力を強化する」と表明していた。
 中朝首脳会談後、北朝鮮は強気な態度に急変した。中国の後ろ盾を得て、南北閣僚級会談の中止を表明した上、米国が一方的な核放棄を強要しているとして米朝首脳会談の中止も警告した。予定していた実務者協議にも現れなかった。一連の行動は、米国に譲歩を迫る「瀬戸際戦術」だったとみられる。
 しかし、この戦術はトランプ氏には通用せず、首脳会談は中止になった。トランプ氏は、挑発行為への備えはできていると強調し、最大限の圧力を加え続けると語った。
 米朝首脳会談が中止になったことで朝鮮半島情勢は今まで以上に緊迫するだろうか。
 トランプ氏は中止を伝える書簡の中で金氏に「いつの日か、あなたと会えることを楽しみにしている」「もしあなたがこの最も重要な首脳会談について心を入れ替えたならば、遠慮なく私に連絡をするか、書簡を送ってほしい」と述べている。
 昨年までのように感情的で激しい口調はなく、対話再開に向け門戸を閉ざしていないと理解したい。
 一方、中止を受けて北朝鮮側も「朝鮮半島と人類の平和と安定のために全力を尽くす意思に変わりはなく、常に大胆で開かれた心で米側に時間と機会を与える用意がある」と対話に余地を残している。
 今年4月に韓国の文在寅大統領と金氏が板門店で初会談し、共同宣言に署名した。10年半ぶり3回目の南北首脳会談は、年内に朝鮮戦争の終戦宣言をし、休戦協定を平和協定に転換するための会談を進めることで一致した。
 非核化に向けた道筋は示さなかったが、完全な非核化実現という共通目標を確認した。南北対立を乗り越え、北東アジアに新しい秩序が構築されることを望む。
 米朝の緊張を再び高めてはならない。