<社説>希少サンゴ移植強行 新基地優先許されない


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 希少種の万全な保護など、念頭にないのだろう。

 名護市辺野古の新基地建設予定地に生息するオキナワハマサンゴの産卵期や高水温期に当たる5~10月の期間でも、移植を進める方針を沖縄防衛局が明らかにした。
 オキナワハマサンゴは絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)である。本来なら移植は控えるべきである。
 防衛局は県のマニュアルを踏まえ、移植は5~10月頃を避けるとしていた。それを一転させ、工事の遅れを避けるための方針変更は環境保護に後ろ向きな体質の表れである。新基地建設を優先させる姿勢は断じて許されない。
 防衛局は移植に必要な県の特別採捕許可が下り次第、産卵期などでも移植する方針に変更した。一方で、6月から移植までの期間、高水温などの対策を実施する。サンゴの周辺に遮光ネットを張り水温上昇を防ぎ、遮蔽しゃ(へい)シートで水の濁りを抑え、護岸外の水を取り入れるとしている。
 だがこの対策は国内に前例がなく、十分な保護効果を証明するデータさえない。つまり、やってみないと効果の程は分からないのである。工事による水温上昇などの影響から希少サンゴを守る対策としては心もとない。希少サンゴの保護を真剣に考えるならば、新基地建設を取りやめるべきである。
 防衛局自身が設置した環境監視等委員会の会合で、委員が了承したことによって、新たな方針にお墨付きが得られたとするのは間違いである。委員会は単なる助言機関にすぎない。
 サンゴを研究する大久保奈弥東京経済大准教授は、防衛局の対策について「サンゴの成育には光と水流、水質が重要で、サンゴを囲えば死ぬ原因となる。全く対策にならない」と批判している。
 竹村明洋琉球大教授(サンゴ礁生物学)は「生物学的な視点が必要だ。別の場所で、対策が有効か検証しないといけない。悪影響が出てからでは遅い」と指摘している。
 このような視点での議論が果たしてあったのだろうか。この委員会は環境保護の面で期待される役割を発揮していると言えるのか強く疑う。
 防衛局は工事前にサンゴ類を移植するとして、県の埋め立て承認を得た。だがことごとく、ほごにしている。
 県が特別採捕不許可とした準絶滅危惧種のヒメサンゴについても、防衛局は移植を取りやめ、二重に設置した汚濁防止枠を四重に増やして工事を進める方針に転換した。K9護岸を使用した石材の海上運搬も、防衛局自身が埋め立て承認の際に提出した環境保全図書に反する。工法などを次々変更しても、県への変更許可は必要ないとする防衛局の姿勢に強く抗議する。
 防衛局の新方針は適切な時期以外でもサンゴを移植し、希少種を危機にさらす危険なものだ。県は特別採捕許可を与えてはならない。