国民の命を守る責任感が欠如しているとしか思えない。西日本で大雨による災害の危険が指摘されていた5日夜、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相、上川陽子法相らが議員宿舎で催された飲み会に出席していたのだ。
この日は午後2時に気象庁が緊急記者会見を開き「西日本と東日本では、非常に激しい雨が断続的に数日間降り続き、記録的な大雨となる恐れがある」と発表していた。首相が宴会に加わった午後8時半までに、京都市は既に数万人に避難指示を出している。
災害派遣を任務の一つとする自衛隊の最高の指揮監督権を有するのは首相だ。防衛相は自衛隊の隊務を統括する立場にある。のんきに宴席に顔を出している場合ではない。京都府が自衛隊に災害派遣を要請したのは翌6日午前1時10分のことだ。
飲み会への出席について小野寺防衛相は「特に支障はないと思っている」と釈明したが、アルコールの摂取は注意力、判断力を低下させる。
関係省庁から随時、災害の状況について報告を受けたとしても、飲酒によって判断力が鈍り、的確な指示が出せなければ元も子もない。首相や防衛相が酒を飲んでいたのなら、なおさら問題は大きい。
天災地変などで緊急を要するときは、都道府県知事らの要請を待たずに部隊を派遣できる旨、自衛隊法は規定している。もしかすると、もっと早く自衛隊を出動させることができたかもしれない。
「土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水・氾濫に厳重な警戒が必要」と気象庁が警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、陣頭指揮を執るべき首相は、飲み会に出て「和気あいあいで良かった」と記者団に語った。
ツイッターに投稿された飲み会の写真を見ると、安倍首相や小野寺防衛相が満面に笑みを浮かべている。緊迫感のかけらもくみ取ることはできない。このとき首相は気象庁の発表内容を把握していたのだろうか。大いに疑問だ。
飲み会は「赤坂自民亭」と称し、月1回開かれていた。5日は自民党の岸田文雄政調会長、竹下亘総務会長を含め約50人が参加している。このタイミングで開催したことに、自民党内からも「大きな災害が予測されるときは慎んだ方がいい」(森山裕国対委員長)との声が出た。それが当たり前だ。
オウム真理教の松本智津夫死刑囚ら7人の刑が執行されたのは翌6日の朝だった。命令を下した上川法相はどのような心境で飲み会に加わっていたのだろうか。違和感を禁じ得ない。
記録的豪雨による被害は甚大であり、復旧への道のりは険しい。安倍首相に求められるのは国民の安全を守る自らの責任を自覚することだ。
何よりも災害対応を最優先し、被災者の救援と復興支援に取り組んでもらいたい。宴席で興じている暇はない。