日米原子力協定が30年の期限を迎え、自動延長された。期限がなくなるため、今後は米国が一方的に協定を破棄できる。そうなると、日本は使用済み核燃料の再処理ができなくなる。この際、破綻していると言われて久しい核燃料サイクルを断念し、危険なプルトニウムを米国などに引き取らせ、一日も早い原発ゼロを目指すべきだ。
1988年に発効した日米原子力協定は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して核燃料として発電に使う核燃料サイクル事業に「包括同意」を与えている。プルトニウムは核爆弾の原料だ。非核保有国で唯一プルトニウムの保有を認められていることから、日本にとって特権的な協定だとされている。
しかし、このプルトニウムが今や核兵器6千発分とされる約47トンまで増えてしまった。これでは核武装を目指していると疑われかねない。米国からも削減を求められてきた。「唯一の被爆国」として核兵器廃絶を願ってきた日本国民にとって、あまりにも矛盾に満ちた状況だ。
もともと核燃料サイクルは、プルトニウムを燃やして、使った以上にプルトニウムが増えるという高速増殖炉が前提だった。しかし、高速増殖炉の開発は遅々として進まず、原型炉もんじゅ(福井県)が1兆円以上を投じながら事故で行き詰まり、2016年に廃炉が決まった。
保有プルトニウムを消費するもう一つの方法が、ウランとの混合酸化物(MOX)燃料に加工して原発で燃やすプルサーマル発電である。現在MOX燃料を燃やせる原発は3基だけで、年間1・5トン消費するのがやっとだ。
MOX燃料はコストが高い。そしてウラン燃料より扱いにくく、使用後の廃棄物も増えるという批判がある。これまで日本から英国とフランスに使用済み核燃料を運び、そこで再処理・加工をして日本に運んできた。輸送の際も危険だとして環境団体の反発を招いた。
国内で再処理できるようにしようと建設した青森県六ケ所村の再処理工場とMOX燃料加工工場が試運転段階にある。MOX燃料の消費に限界がある中で本格稼働すると、使えないプルトニウムがさらに増えることになる。
「地獄の王の元素」プルトニウムは極めて強い毒性があり、核兵器の原料である。政治的にも物理的にも最も危険な物質といえる。これを他国に引き取ってもらうとすれば、ばく大な費用を要求されるであろう。そして、再処理を止めれば、全国の原発にたまった使用済み核燃料の保管、処分という大問題に直面することになる。
しかし、それも原子力政策の負の遺産だ。福島第1原発事故を教訓として、未来の世代への負の遺産をこれ以上増やしてはならない。プルトニウムの放棄、脱原発という決断をすべき時だ。