<社説>県が辺野古承認撤回 法的対抗措置やめ断念を


この記事を書いた人 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、県は仲井真弘多前知事による埋め立て承認を撤回した。これによって承認の法的根拠が失われ、工事はストップする。

 政府が工事中断に伴う損害賠償の可能性をちらつかせる中で、謝花喜一郎、富川盛武両副知事ら県首脳が故・翁長雄志知事の遺志を実行に移したことを評価したい。
 建設予定地に軟弱地盤の存在が明らかになったこと、事前に決めた環境保全対策を実行していないことなどを撤回の根拠としている。政府は重く受け止めるべきだ。
 この間の政府の対応を振り返ると、さまざまな点で信義にもとる行為や約束違反を繰り返してきた。
 仲井真前知事が埋め立てを承認した際、県は「工事の実施設計について事前に県と協議を行うこと」と留意事項に記載した。だが、沖縄防衛局は事前協議が完了しないうちに、昨年2月に汚濁防止膜設置の海上工事、同年4月には護岸工事に着手している。
 埋め立て承認後に沖縄防衛局が実施した調査で建設予定地に「マヨネーズ並み」の軟弱地盤が存在することが確認されていた。ところが政府はこの事実を県に伝えていない。今年3月に市民の情報公開請求によって初めて明らかになっている。
 なぜ口をつぐんでいたのか。公表すれば地盤改良工事の必要性が白日の下にさらされる。新たな改良工事の実施は設計概要の変更に当たるため、公有水面埋立法に基づき知事の承認を得なければならない。工事の進捗(しんちょく)に影響が出ることを避ける意図で、隠していたとしか考えられない。防衛局は工法変更申請の必要性について「総合的に判断する」と言葉を濁している。
 新基地予定地近くにある国立沖縄工業高等専門学校の校舎、米軍の弾薬倉庫、通信事業者や沖縄電力の鉄塔、一部の民家など多くの建造物が、米国防総省が航行の安全のために制定した飛行場周辺の高さ制限を超えている。
 米国内だったら造れない飛行場の建設をどうして沖縄で許すのか。日本の航空法にも抵触するが、米軍基地には適用されない。
 県民の間に強い反対がある中で新基地建設を強行するのは政府に対する不信感を増幅させるだけだ。沖縄に矛先を向けるのではなく、米国政府と真正面から向き合って、県内移設を伴わない普天間飛行場の返還を提起すべきだ。
 承認撤回を受け、政府は法的対抗措置を取ることを明らかにした。国、県の対立がまたしても法廷に持ち込まれる。
 強い者にへつらい、弱い者に強権を振りかざす。今の日本政府は時代劇でお目にかかる「悪代官」のように映る。
 政府首脳はこれまでの対応を省みて恥ずべき点がなかったのか、胸に手を当ててよく考えてほしい。対抗措置をやめ、新基地建設を断念することこそ取るべき選択だ。