米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)が30日に発効する。輸入農水産物の82%の関税が撤廃され、重要品目も関税削減や輸入枠が設定される。日本の農政、通商政策の大転換にもかかわらず、農業者の不安に応える説明や対策は薄い。県内では畜産を中心にサトウキビなどに大きな影響が出ると試算されている。競合を強いられる国内農業をどう支え、強化するのか。政府は農家保護策だけではない具体的施策を速やかに行う責務がある。
TPPは3月に米国を除く11カ国が署名して、成立が確定した。参加国の国内総生産(GDP)の合計は約10兆ドル(1100兆円)で、世界の13%に相当し、約5億人の巨大な経済圏が誕生する。また欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も手続きが終了し、来年2月1日に発効の方向となった。日欧EPAはGDPが世界の約3割とさらに大きい。
TPPには当初、中国のような保護主義的勢力の台頭を封じる狙いがあった。しかし、自国第一を打ち出す米国のトランプ政権がTPPを離脱して、保護主義政策を進めている。TPP参加各国は米国をけん制する意味から手続きを急ぎ、早期発効にこぎ着けた。
年明けには日米の2国間交渉が始まる。トランプ大統領は農業でTPPに匹敵する市場開放を日本に求める見込みだ。要求を受け入れれば米国のTPP復帰は遠くなる。日本は自由貿易と多国間協議を主導する役割が求められる。
一方で国内農業の競争力強化は待ったなしだ。政府は農林水産物の生産額がTPPによって最大1500億円、日欧EPAで1100億円減ると試算している。
JA沖縄中央会によると、県内農業へのTPPの影響は畜産分野を中心に200億円に上るという。牛肉の関税は38・5%が段階的に削減され、16年目以降は9%になる。豚肉は低価格帯の従量税、高価格帯の従価税が段階的に引き下げられる。安価な輸入肉が入れば、国内の牛肉や豚肉価格は下落するだろう。現状のままで海外産に対抗できるか。
日欧EPAでイベリコ豚など欧州の有名ブランド豚が安くなれば、アグー豚など知名度の上がってきた県産ブランドの競争力は低下する。
サトウキビは生産者交付金の増額など政府の農家支援で当面の影響は限定的だとされるが、TPPで砂糖の国内価格が下落すれば、効果が目減りする可能性もある。
いずれにせよ、農業の経営体力をどう強くするのか。生産基盤の強化や農家の所得向上などは喫緊の課題だ。食料自給率は下がり続けている。国の根幹としての農業をおろそかにしてはならない。生産に大きな打撃が出ないよう、政府は十分な対応をすべきであり、将来を見据えた農業振興策を急ぎたい。