日本の「表現の自由」が危機にひんしている。
言論と表現の自由に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏が新たな報告書をまとめ、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への抗議活動などに対し当局による圧力が続いているとして、集会と表現の自由を尊重するよう日本政府に求めたのである。
政府はケイ氏の批判を真摯(しんし)に受け止め、集会の自由や表現の自由を脅かす一切の行為をやめるべきだ。
国連の特別報告者は、国連人権理事会から任命され、特定の国やテーマ別の人権状況について調査・監視する役割を担う。いかなる政府や組織からも独立した資格を持つ。ケイ氏は国際人権法や国際人道法の専門家だ。
2017年の報告書は、日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性に言及し、同法の改正と、政府が放送局に電波停止を命じる根拠となる放送法4条の廃止などを勧告した。
沖縄の米軍基地建設の抗議活動への圧力に懸念を示し、公共政策への反対表明の自由は侵害されるべきでなく、抗議活動や取材を行えるよう政府に努力を促していた。
新たな報告書は、勧告がほとんど履行されていないとして、改めて日本政府を批判している。
世界的な視点に立つケイ氏の指摘は重い。表現の自由を巡る日本の現状が国際基準を大きく逸脱していることが、再び白日の下にさらされた。国民にとって極めて憂慮すべき事態である。人権がないがしろにされているからだ。
言うまでもなく、表現の自由は民主政治の基盤となる重要な基本的人権である。この権利が恣意(しい)的に制限されると、体制側に不都合な情報がことごとく隠蔽(いんぺい)される状況が容易に生み出される。
選挙の際に公正な判断材料が得られず、体制を改めることもおぼつかなくなる。その結果、民主主義の根幹は大きく揺らいでしまう。
名護市辺野古の新基地建設現場では、反対する市民らの抗議や取材を規制する動きが顕著だ。資材が搬入される米軍キャンプ・シュワブのゲート前では、座り込んで抗議する市民らの強制排除が警察によって続いている。
独裁国家でしか見られないような光景が、沖縄では堂々と県民の眼前で繰り広げられている。国際基準に照らせば明らかに人権侵害だ。
記者が取材妨害を受けて、現場から追い出されたり、撮影をやめさせられたりしたこともあった。
ケイ氏の報告書について菅義偉官房長官は「不正確かつ根拠不明のものが多く含まれ、受け入れられない」と一蹴した。国連の特別報告者を軽んじる態度であり、国際社会の一員として不適切だ。国の信用にも関わる。
集会や表現の自由をないがしろにすることは許されない。政府に猛省を促したい。