防衛省が進める地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画を巡り、秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場を「適地」とした調査に重大なミスが記載されるなど不手際が相次いでいる。最初から新屋ありきで、調査とは名ばかりだったのではないか。不信は深まる一方だ。
岩屋毅防衛相は「信頼回復に全力を挙げたい」と言うが、ずさんな調査に基づく配備地の選定を白紙にすることから始めなければ信頼の回復などあろうはずがない。大臣が更迭されてもおかしくない深刻な事態だ。防衛相の責任を不問に付す安倍晋三首相の指導力にも疑問符が付く。
イージス・アショアはレーダーと指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成する防衛システムだ。陸上に配備し、弾道ミサイルを迎撃する。防衛省が配備地とする地元住民からは、レーダーが発する強い電磁波による健康被害への懸念や有事に攻撃目標となる恐れから、不安の声が上がっている。
防衛省は新屋演習場への配備を説明する調査資料で、同演習場以外は、周囲にレーダーを遮る山があるため配備地として「不適」と断じた。だが、これは山を見上げた仰角を実際よりも過大に記載していたものだった。
誤りを報じたのは地元紙の秋田魁新報だ。地形のデータに疑問を覚え、独自に計算した上、測量業者にも依頼してミスを確認した。報道を受けて防衛省は、担当職員が机上で仰角を計算した際に、「高さ」と「距離」の縮尺が異なる地図を使ったために起きたミスだったと認めた。
秋田魁新報の調査報道がなければ、防衛省は「唯一の適地だ」と住民の反対を押し切っていたのではないか。
地元の声を顧みず、配備地ありきで物事を進める防衛省の姿勢は、沖縄からすればさもありなんと感じる。
宮古島市の陸上自衛隊駐屯地では、住民に説明もなく中距離多目的誘導弾などが保管されていた。報道で発覚すると防衛省は「説明が不足していた」と謝罪し、弾薬を島外に搬出した。辺野古新基地でも工事の実現性に関わる軟弱地盤の存在を隠し続けた。
旧日本軍の隠蔽(いんぺい)体質がどこかに残っているのではないかと疑いたくなる。
政府は対外有償軍事援助(FMS)によってイージス・アショアを導入する。2基の本体購入費の一部として約1399億円を支払う契約を米政府と交わした。米側の提示額や納期を日本政府が受け入れるFMSは事実上、米側の言い値だ。
イージス・アショアは、ハワイやグアムに届くミサイルを撃ち落とす米国の防衛システムとして運用される可能性も指摘される。米国の言いなりになって負担を肩代わりするのであれば到底容認できるものではない。配備の必要性も含め、事実をつまびらかにした上で再検証が必要だ。