名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は埋め立て予定海域の大浦湾側に広がる軟弱地盤の改良工事について、土木工学の専門家らでつくる有識者会議を設置する。9月上旬にも東京都内で初会合を開くという。
識者から地盤改良工事の技術的な提言を得て工事の正当性を強調し、工事に反対する県の主張に対抗しようという意図が見える。
しかし本来、政府が設置する有識者会議は公正でなければならない。辺野古新基地建設のように政府と地元沖縄の意見が対立しているような案件ならなおさらだ。少なくとも、会議に沖縄県が推薦する専門家を入れ、議事録を公表するなどして、公平性と透明性を担保するべきだ。
大浦湾の軟弱地盤は、沖縄平和市民連絡会の北上田毅氏らが情報開示請求で入手した沖縄防衛局の地質調査報告書によって2018年3月に発覚した。地盤の強さを示すN値がゼロを示す、「マヨネーズ状」といわれる非常に緩い砂地や軟らかい粘土があることが分かった。大規模な構造物を建設する場合、N値が50程度必要とされ、不足している場合は大規模な地盤改良が必要となる。
県は昨年8月、軟弱地盤が見つかったことなどを理由に辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した。沖縄防衛局は対抗措置として、行政不服審査法に基づく審査請求を申し立て、国土交通相が今年4月、撤回を取り消す裁決をした。
防衛省が国会に提出した地盤改良に関する報告書では、改良が必要な海域は大浦湾側を中心に73ヘクタールあり、海底に砂ぐい約7万7千本を打ち込む工法を用いる。改良には県への設計変更申請が必要だが、玉城デニー知事は変更を認めない方針だ。
辺野古の埋め立てについては仲井真弘多元知事が承認の条件として国が設置した環境監視等委員会がある。しかし委員会の運営は辺野古の関連工事を請け負う環境建設コンサルタント「いであ」(東京)が担い、しかも同社を含む受注業者から委員に寄付や理事報酬が支払われたことが明らかになった。委員会の中立性は極めて疑わしい。
委員会の副委員長を務めた東清二琉球大名誉教授は「基地建設ありきで大事なことを調査せず、はんこだけで実施している委員会だ。何の意味もない」と指摘して辞任した。議事録も作成しないこのような委員会が公正に役割を果たしているだろうか。軟弱地盤の有識者会議も、専門家の「お墨付き」を得るための結論ありきの存在ではないのか。
そもそも安倍晋三首相は辺野古の地盤改良について「一般的で施工実績が豊富な工法」で可能と述べ、施工のたやすさを強調してきた。しかし一般的な工法なら有識者に改めて意見を聞くまでもないだろう。有識者会議の設置は辺野古新基地建設工事がいかに困難なのかを示した格好だ。