沖縄への鉄軌道導入をめぐる議論が新たな段階に入った。県は6日公表した調査報告書で「公設民営型・上下分離」方式を適用すれば、単年度で黒字化は可能と結論づけた。2015年度末にも国に事業化を働き掛ける方針だ。
調査報告書は、沖縄への鉄軌道導入で国が示した事業規模や採算性に関する問題点を整理し、県側の論拠を再提示した。「『導入可能性』ではなく、早期に導入するための『実現化戦略』を検討するもの」と踏み込んだ点は評価したい。
那覇空港-名護間の市街地や観光拠点の13カ所を最短で結ぶモデルルート(延長69キロ)を設定。4両編成のリニアモーター式小型鉄道(最大時速100キロ)で、那覇-名護間を約1時間で運行する。
国調査では、糸満-名護間を普通鉄道で整備した場合の総事業費は7300億~1兆6千億円。そこで県は「建設費縮減の効果が高い」として、小型リニアを想定することで総事業費を5600億円(那覇-名護間)に抑えた。
国調査では、普通鉄道では開業後40年で累積赤字は6千億円に膨らむ。しかしこれは、既存の補助制度や「上下一体」の第三セクター方式を前提とした試算だ。このため県は、インフラ部分を国が負担し事業者が運営する「上下分離」の特例的制度が不可欠とした。
国策による戦争で県営の軽便鉄道を失い、戦後は全国で鉄道が再整備される「戦災復興」からも取り残された沖縄の特殊事情を考慮すれば、当然の要求だろう。
県調査で気になるのは、用地確保の困難さやコスト削減を図る狙いから、空港からうるま市までを地下鉄区間、全路線の7割をトンネル構造と想定している点だ。
しかし、街並みや景観とも調和した鉄軌道を期待する県民も多いはずだ。県調査は普天間基地飛行場を含め、嘉手納基地より南の米軍基地返還も織り込んでいる。ならば、返還跡地を避けずに有効活用して、地上を走らせることも検討すべきだ。
県調査ではまた、駅を拠点に基幹の鉄軌道とLRT(次世代型路面電車)や路線バスなどを連携させた公共交通指向型の街づくりも提起している。大切な視点だ。
県は関係自治体や有識者から意見を聴き、本年度中にも基本構想をまとめる方針だ。正式なルート策定も含め、丁寧な説明と合意形成作業が重要になってくる。