「積極的平和主義」。安倍晋三首相が9月以来、国連総会での演説などで、日本の国際貢献の在り方をめぐり、この新たな概念を頻繁に強調するようになった。
15日の所信表明演説で、首相は「国際協調主義に基づき、積極的に世界の平和に貢献する国にならないといけない。『積極的平和主義』こそ、わが国が背負う21世紀の看板だ」と胸を張った。
「日米同盟」を基軸に据える安倍政権の外交・安全保障政策の柱にする狙いがあろう。憲法が掲げる「平和主義」の前にあえて「積極的」を置く意図は何か。国民への説明は全く尽くされておらず、危うさが潜む。
「積極的」の言葉からすると、専守防衛をうたい、不戦を誓った憲法9条を軸にした従来の平和主義の浸透を図ることを想起させるが、安倍首相の意図は全く逆だ。
首相は米保守系のシンクタンクでも「積極的平和主義」に言及し、集団的自衛権の行使容認を「真剣に検討している」と述べた。その理由に「日本近海の公海上で攻撃を受けた米海軍のイージス艦を助けることもできない」などを挙げた。海外での武力行使を禁じた憲法解釈を見直し、集団的自衛権行使に道筋をつけるため、都合のよい言葉に飛びついたとしか思えない。
安全保障と防衛力に関する懇談会は「国家安全保障戦略」の基本理念に「積極的平和主義」を盛り込むと確認している。座長の北岡伸一氏(国際大学長)は「日本は『悪いことはせず、軍備はなるべく持たない』という消極的平和主義だった。それを超えた平和への貢献が必要だ」と語っている。
それは、米軍との共同行動を念頭に世界の紛争に介入し、軍事力行使によって平和を構築することを意味しよう。安倍政権が目指す、武器や関連技術輸出を原則的に禁じる「武器輸出三原則」の見直しもその一環だ。安倍首相がこだわる「戦後レジームからの脱却」と「積極的平和主義」は背中合わせと見ていい。
軍事や安全保障の分野で、耳当たりのいい言葉が急速に台頭することは危険だ。太平洋戦争に突き進んだ戦前からの教訓である。「沖縄の負担軽減」が喧伝(けんでん)される陰で進む日米の軍事一体化も同列であり、警戒せねばならない。
主権者を無視して平和主義をつまみ食いし、戦争をする国に道を開く国策の大転換は許されない。