新たな万能細胞 未来を開く画期的な発見


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 人類の未来を開く可能性を秘めた新たな一歩と言えるだろう。再生医療の研究分野が、日進月歩で進化していることをあらためて内外に強く印象付けた。

 さまざまな組織や細胞になる能力を持つ「万能細胞」を新たな手法で作ることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子研究ユニットリーダー(30)を中心とするチームがマウスを使って成功し、英科学誌ネイチャーに発表した。
 体細胞を弱い酸性の溶液に入れることで刺激を与えて作る世界初の手法で、「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得」の英語の頭文字からSTAP(スタップ)細胞と命名された。
 同じ能力を持つ万能細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)がある。STAP細胞が両細胞と異なる最大の特徴は、遺伝子を操作することなく簡単な操作で短期間で効率的に作れる点で、iPS細胞で懸念される体内でのがん化の可能性も低いという。
 とりわけ生物学の通説を覆す画期的な発見とされるのは作製法だ。成長した細胞が受精卵のような状態に巻き戻される「初期化」は、細胞核の遺伝子を操作しない限り、動物では起きないとされていた。最初の論文投稿では、権威あるネイチャーが「細胞生物学の歴史を愚弄(ぐろう)している」と一蹴していたことからも、研究成果が生命科学の概念をはるかに超えていたことが分かるだろう。
 海外の研究者からも「成果は衝撃的で、強力な可能性を秘めている」(米ピッツバーグ大)、「革命的。幹細胞生物学の新時代の幕開けだ」(ロンドン大キングズ・カレッジ)など、驚きと称賛の声が上がる。STAP細胞の価値や研究の意義を物語る。
 iPS細胞の生みの親でノーベル賞医学生理学賞を受賞した山中伸弥京大教授に続き、若い日本人科学者が世界に衝撃を与えた意義は計り知れない。国内の研究者を勇気づけるとともに、未来を担う子どもたちにも大きな夢と希望を与える。
 もちろん小保方氏が説明するように、現段階では生まれたてのマウスで成功した限定的な成果だ。今後、人の細胞でも同じことが起こるのか、謎とされる細胞内のメカニズムの解明を含め、世界規模の研究競争が加速する。小保方氏グループらの研究の一層の進展と新たな朗報を心待ちにしたい。