W杯開幕 祭典の平和的な開催を


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 サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会が開幕した。1カ月に及ぶ祭典が平穏に行われることを願ってやまない。

 5大会連続出場の日本代表は日本時間15日に初戦を迎える。持ち前の組織力や団結力に加え、攻撃的な布陣で臨むというその戦いに期待したい。国民に勇気を与えるプレーを心待ちにしている。
 ただ開催をめぐり、影の部分も浮かび上がっている。開幕戦は優勝候補の開催国ブラジルが快勝したが、競技場の外ではデモ隊と武装警官隊の攻防が試合開始前まで続いた。開幕日は8都市で開催反対のデモがあり、暴徒化の騒ぎもあったという。
 W杯準備には110億ドル(約1兆1千億円)の公費がかかった。ブラジルではスタジアム建設などに巨額を投じるよりも、福祉や教育などに予算を回すべきだとして開催前からデモが相次いでいた。
 ブラジルは高度成長で一時「新興国の雄」ともてはやされたが、世界有数の貧富の格差を抱えることでも知られる。経済の減速でここ数年、社会のひずみが次々と露呈し、国民の不満が増大した。物価高に加え、立ち遅れる福祉や教育のインフラ整備、劣悪な治安など多くの課題を抱えている。
 同国で昨年6月にあったサッカーのコンフェデレーションズ杯の開催時も激しいデモが起きた。今回もデモの過激化が心配されるが、万が一にも大会関係者や観客、国民の安全が脅かされるような事態があってはならない。関係者には平和的で理性的な対応を求めたい。
 一方でブラジル政府は、多くの国民がW杯での自国優勝を願いつつ、W杯開催に複雑な思いを寄せている状況と真摯(しんし)に向き合うべきだ。公立学校では教員が足りずに2部制が当たり前で、公立病院では医師や設備不足から予約が数カ月待ちの状況だという。
 ブラジルは2年後には五輪開催を控えている。同国の責任は重い。W杯に伴う投資や雇用などの効果は限定的であり、教育や福祉環境などの抜本的な改善が急務だ。「サッカーよりも生活向上」と訴えた国民の不満に応えなければならない。
 W杯の巨大化に伴う開催国の負担増を指摘する声もある。グローバル企業の協賛金や放送権料などで膨らむW杯の在り方をもう一度議論するよい機会だ。国際社会もW杯やブラジル社会が抱える矛盾から多くの教訓を導き出すべきだ。