<社説>仮設桟橋着手 民主主義に反する蛮行だ


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 これが民主主義国家のやることなのか。沖縄の民意など委細構わず蹴散らすと言わんばかりだ。

 米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局は中断していた海上作業を再開した。近く仮設桟橋の設置を始めるという。
 「仮設」という名が付いているが、砕石を大量に投入する事実上の埋め立てだ。それを、新基地建設に反対する人が知事に当選した直後に強行するのである。沖縄以外では決してできないはずだ。
 同じことが県外でも実行できるなら、政府は今すぐ「日本は民主主義をやめました」と宣言した方がいい。県外ではできず、沖縄でのみ実行するつもりなら、「沖縄には民主主義を適用しない」という意思を正直に示すべきだ。
 この作業は民主主義にも人道にももとる恥ずべき蛮行だが、環境の面でも他の先進国では考えられない行為である。
 環境影響評価(アセスメント)は先進国の公共事業なら必ず経る手順だが、この仮設桟橋はアセスにも埋め立て申請にも記載していない。これが許されるなら、アセスの制度が存在する意味がない。
 防衛省幹部は「いずれは埋め立てる区域だ」と述べる。「どうせ埋め立てるのだから、アセスに記載しないまま環境を破壊しても構わない」という意味だろう。事前の検証抜きでの環境破壊を正当化する先進国は他にあるまい。
 政府が作業を再開した19日にはくしくもサンゴ密漁問題関連法が成立した。小笠原海域での中国船によるサンゴ密漁取り締まりを強化する法だ。小笠原のサンゴは守るが大浦湾のサンゴは破壊していいとでも言うのだろうか。
 菅義偉官房長官は知事選直後、「(選挙結果にかかわらず)移設を粛々と進める」と述べた。沖縄がどんなに抵抗しても無駄だ、と県民に刷り込みたいのだろう。
 世界史を見ると、植民地の住民に自分は無力だと思い込ませ、抵抗をあらかじめ排除しようとするのは宗主国の常套(じょうとう)手段だ。だが沖縄の抵抗は、国際標準に照らせば強い説得力を持つ。選挙直後に急いで無力感を刷り込もうとするのは、政府が沖縄の抵抗を恐れていることの表れだ。われわれが無力感にとらわれる必要はない。堂々と世界に日米両政府の非を訴えれば、いずれ国際世論は沖縄に味方するだろう。