<社説>衆院解散 国家像変えた政治に審判を 沖縄の民意軽視するな


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 衆議院が21日解散した。

 安倍晋三首相は自身の経済政策「アベノミクス」の評価や消費税再増税の延期について国民の信を問うと強調する。だが再増税延期も消費税増税法の「景気条項」に沿って判断しただけの話である。
 増税を取りやめるのなら分かるが、1年半後に必ず増税すると言うのなら増税法に従うだけであり、解散の理由にはなるまい。
 むしろ集団的自衛権行使容認や特定秘密保護法施行、原発再稼働など、賛否の分かれる重要案件をこそ争点に据えるべきであろう。

憲法理念と乖離(かいり)

 安倍内閣はことし7月、集団的自衛権行使を容認するため、憲法解釈の変更を閣議決定した。
 交戦権を否定した憲法9条は敗戦の痛手の中で手にした戦後政治の精神的支柱であり、平和を希求する国民世論にかなうものだ。
 歴代内閣は憲法の平和主義に照らした内政・外交政策を基本としてきた。憲法9条からの逸脱を国民が許さないからだ。ところが安倍内閣は国民の審判を仰がず、国会の採決を経ないまま、平和憲法の理念をゆがめてしまった。
 12月に施行する特定秘密保護法も同様だ。安倍内閣は昨年12月、国民の「知る権利」を制限し、官僚と政権与党の一部が重要な情報を独占することを許す法律を数の力で押し切った。国民の声を顧みない安倍内閣の専横性が浮き彫りとなった。
 ところが菅義偉官房長官はいずれも「次期総選挙の争点にはならない」と発言した。「戦争のできる国」に突き進む安倍内閣を危惧する国民を切り捨てる暴論だ。
 福島の復興が進まない中での川内原発再稼働も、脱原発を求める国民世論に逆行する見切り発車であった。ここでも周辺自治体の民意は置き去りにされた。
 安倍内閣は戦後69年にわたり積み重ねてきた平和と民主主義の理念に基づく国家像を大きく変えた。今回の総選挙はその「安倍政治」に国民が審判を下す重要な機会だ。
 「アベノミクス」にも触れたい。政府の統計によると、実質賃金指数は15カ月連続で前年割れが続く。首相は雇用が増えたと力説するが、増えたのは非正規であって正規雇用は減り、「ワーキングプア」は30万人も増加した。雇用者報酬は実質4300億円減り、個人消費も実質で2兆円余減少した。安倍首相は美辞麗句を並べるのではなく、「アベノミクス」の実相を示すべきだ。
 前回の解散に際し、自民、民主、公明は1票の格差是正に向け選挙制度改革の推進に合意していた。国会議員が身を削ることがないまま、解散で改革が先送りになった事実も押さえておきたい。

公約は選択の基礎

 16日の知事選で、普天間飛行場の辺野古移設反対を公約に掲げた翁長雄志氏が、現職の仲井真弘多氏に約10万票の大差をつけて当選した。普天間の辺野古移設を拒否する沖縄の民意を明確に示した。
 総選挙に乗じて「辺野古ノー」の民意を軽視することがあってはならない。沖縄の民意を踏まえ普天間飛行場の県外・国外移設を模索するのが政府のあるべき姿だ。
 ところが沖縄防衛局は海上作業を再開した。大量の砕石を海に投じる仮設桟橋の建設も計画している。工事強行の既成事実を積み重ね、県民を萎縮させようともくろんでいるのなら大きな過ちだ。
 公約は民主主義的選択の基礎だ。その重みは言うまでもない。
 前回の総選挙で普天間の県外移設を唱(とな)えて議席を得たにもかかわらず、県内移設に転じた自民の4衆院議員には、自らの姿勢転換をきちんと説明してもらいたい。政治不信を有権者に植え付けた責任は重大だ。公約違反の事実と向き合わないまま選挙戦に挑むことがあってはならない。
 私たちは戦後民主主義の立脚点を問い、国の行方を定める重大な選挙に臨むことになる。各党には、国民の選択に役立つ真摯(しんし)な論戦を十分に展開してもらいたい。