<社説>秘密法の根拠 問題多い悪法の施行阻もう


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 法律をつくる必要性はなかった。法の核心部分への疑念が強まる事実が明るみに出た。

 国の機密を漏らすことに厳罰を科す特定秘密保護法をめぐり、内閣情報調査室が作成した条文素案に対し、内閣法制局が成立の2年前の2011年の段階で法律の必要性の根拠や、重い罰を科す根拠が薄弱であると指摘していたことが分かった。
 「法律のプロ」が秘密保護法の立法環境の不備を指摘していた事実は重い。
 来月10日の施行を前に、秘密保護法を施行させてはならない論拠がまた一つ厚みを増した。
 主権者である国民の知る権利をないがしろにし、国に不都合な情報が隠される恐れが強い法の制定過程にも、国民が知るべき重要な事実が潜んでいたわけだ。
 秘密保護法が施行されると、今回、情報公開制度で公開された法の制定過程の議論さえ、政権側が恣意(しい)的に「特定秘密」として封印する可能性があるのではないか。
 尖閣諸島近海で起きた中国漁船と巡視艇の衝突事件の映像がインターネット上に流出した事案を挙げて漏えいの危険性を訴える内調側に対し、法制局は「重罰化へのつながりが弱い」と返答した。
 さらに、自衛官が「防衛秘密」を漏らす危険性に対処する「防衛秘密制度」の導入を踏まえ、法制局は「(その後の)漏えい事件が少なく、重罰化の根拠になりにくい」とし、再発防止策が十分講じられていると疑問を投げ掛けた。
 01年に自衛隊法が改正され、秘匿度の高い情報を「防衛秘密」に指定した。漏えい罪の罰則は5年以下の懲役に強化された。
 その後に起きた公務員による4件の情報漏えい事件のうち、政府は漏れた情報が「特定秘密」に当たるのは、中国潜水艦の事故情報を新聞記者に漏らした1等空佐が書類送検され、起訴猶予になったケースだけと説明している。
 秘密保護法制定は「無理筋」だったにもかかわらず、安倍政権が政治主導で強引に推し進めたことを裏付けた格好である。
 公安警察と気脈を通じる内調が立法過程で深く関与していたのは不気味だ。国民を広く監視する動きを強めないか、警戒が必要だ。
 秘密保護法は国民の知る権利を侵す重大な欠陥が是正されておらず、立法根拠にも疑問が尽きない。施行を阻むべき悪法である。