<社説>自民選挙報道文書 不当な介入は許されない


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 自民党が在京テレビ各局に対し、総選挙報道の公平性確保などを求める文書を送っていた。報道を萎縮させかねない。

 文書は20日付で、在京キー局の編成局長と報道局長宛てに出された。差出人は自民党の萩生田光一筆頭副幹事長と福井照報道局長の連名だ。民放各局は文書が届いたことを認め、NHKは「個別の件はお答えしていない」としている。
 自民側は選挙期間中の報道について出演者の発言回数や時間、ゲスト出演者などの選定を公平中立にし、街頭インタビューや資料映像も一方的な意見に偏ることがないよう求めた。
 国から放送免許を与えられるテレビ局は、放送法で政治的な中立公正性が求められている。日本民間放送連盟の放送基準があり、各局がそれぞれ報道の公平性に責任を持っている中、政権与党からの「要請」は「圧力」と受け取られても仕方がない。
 自民側は文書で、選挙期間が短い衆院選では報道の内容が選挙に大きく影響しかねないとして「過去にはあるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道をし、大きな社会問題になった」とも記載した。この点は看過できない。
 1993年に当時のテレビ朝日報道局長の総選挙報道をめぐる発言が問題となった件を指しているとみられる。文書について自民党広報本部は「報道の自由は尊重するという点は何ら変わりない」と回答しているが、テレビ局側をけん制する狙いは明らかだろう。
 日本民間放送労働組合連合会は要請について「政権与党が報道番組の具体的な表現手法にまで立ち入って事細かに要請することは前代未聞だ。許し難い蛮行と言わざるを得ない」と激しく反発した。
 文書の背景には、経済政策や普天間問題を含めた安全保障政策、原発再稼働問題などで、政権与党に対する批判を抑制しようとする狙いがあろう。与党の政策を検証し、選挙の争点を国民に提示することは報道機関の責務だ。それに対する不当な介入は決して許されない。
 文書を受け取った時点で報道しなかったテレビ局の姿勢には疑問が残る。総選挙の報道では、テレビ討論番組で出演予定だった評論家が局の意向で出演を取り消された問題も発覚し、波紋を広げている。
 当然ながらテレビ局には今回の文書などに萎縮せず、正々堂々と選挙報道をしてもらいたい。