<社説>防衛指針先送り 選挙の争点外し許されない


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 安倍晋三首相が11月の日米首脳会談で、自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力指針(ガイドライン)の年内改定を来春以降に先送りするようオバマ大統領に打診し、合意していた。改定は来年5月以降になる見通しだ。理由は12月14日投開票の衆院選と来年4月の統一地方選で、安全保障論議が争点となるのを回避する狙いがあるようだ。

 改定を先送りしたとしても、内容の方向性をつまびらかにして、堂々と選挙戦で信を問うべきだ。国民の目をふさぐ小手先の策を弄するのはやめるべきだ。
 指針は冷戦時代の1978年に旧ソ連の侵攻に備えて策定された。97年には朝鮮半島有事を意識した内容に改定した。中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発などを念頭に日本が再改定を打診し、ことし10月に中間報告が公表された。
 97年改定の現行指針では日本中の民間の港や空港も米軍が自由に使えるよう支援することが定められている。また後方支援活動では「地方公共団体の権限・能力および民間の能力も適切に活用」するとある。公務員も民間人も根こそぎ米軍に協力するよう義務付けている。こうした重大な改定が当時、国民的議論を尽くす手続きを経たとは言い難い。今回も国民の目をそらしたまま作業を進めることがあってはならない。
 中間報告では自衛隊による米軍との協力範囲を日本周辺から地球規模に拡大し、対米支援の地理的な制約を事実上撤廃している。自衛隊の海外展開を野放図に容認する極めて危険な改定だ。
 さらに憲法が禁じる「他国との武力行使との一体化」の範囲も「現に戦闘行為を行っている現場(戦場)」だけに絞り、活動範囲を拡大した。イラクに自衛隊を派遣した際には戦闘行為が行われないと認められる「非戦闘地域」に限定していたのとは対象的だ。改定によって米国の戦争に巻き込まれる恐れが一層高まっている。なぜ、これほど重要な見直しを選挙戦で訴えて理解を求めないのか。
 安倍晋三首相は衆院選の争点として、来年10月に予定していた消費税率10%への引き上げの1年半延期と経済政策「アベノミクス」継続の是非を挙げて「国民の信を問う」と訴えた。それならば指針再改定も国民の信を問うべきだ。これほど重要な論点を、争点から外すことがあってはならない。