<社説>グアム予算執行へ 早々に仕切り直しを


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 米上院が、在沖米海兵隊約5千人のグアム移転事業の予算凍結解除に合意した。全国的には「普天間飛行場の辺野古移設を後押しする可能性も」と見る向きもあるが、違和感を禁じ得ない。こんなことで県民が辺野古移設に賛成するなど、まずあり得ないからだ。

 「いったん決めたから」というだけの理由で、民意がどうであろうと、何が何でも進めるというのはまさに思考停止だ。日米両政府は普天間の県内移設に固執するが、時間の無駄だ。早々に仕切り直した方がいい。
 海兵隊の沖縄からの移転は、政治的観点だけでなく、戦略的にも財政的にも必然である。いずれその流れが強まるのは必至だ。
 今回のグアム移転事業、すなわちグアム基地拡張も、沖縄の負担軽減のためと見るのは早計だ。政府はそう強調するが、米軍自身の安全のためという側面もある。
 これは「エア・シー・バトル」という米軍の大きな構想の一環である。この構想は「縦深性」確保の観点に貫かれている。敵軍と一定の距離を保つべきという視点だ。
 再編で米軍は海兵隊をハワイやグアムに移転させる計画だ。中国のミサイルの射程距離内にある沖縄に、陸・海・空の3軍と海兵隊を全て集中させるリスクを避けるという意味があると見ていい。
 ジョセフ・ナイ元米国防次官補が8月に米サイトに寄稿した内容がそれを裏付ける。「中国のミサイル技術が発達し、沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘し、見直しを求めているのだ。
 ナイ氏は3年前にも在沖海兵隊の豪州移転を提言した。米国防総省系のシンクタンクも、定員1万9千人の在沖海兵隊の1万7千人分を米本国に移転しても「展開能力にはわずかな影響しか及ぼさない」と述べている。軍事技術上も沖縄からの移転は合理的なのだ。
 米国の財政上も移転は必然的だ。今回の予算承認も解決の先送りにすぎない。67兆円もの膨大な軍事費の支出を続けるのは不可能だ。今後10年で100兆円の削減を求められてもいる。中長期的には在外基地と兵員を現状のまま維持できるはずがない。
 そもそも沖縄にこれほど外国軍を集中させるのは人道にもとる。民意を尊重する民主主義的観点からも、問題は歴然としている。日米両政府は、両国関係の持続可能性の観点からも、在沖海兵隊を県外・国外に移転すべきなのだ。