<社説>衆院選 アベノミクス 格差、生活安定が問われる


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 衆院選は安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」に対する評価が最大の争点の一つだ。

 安倍首相はアベノミクスの「三本の矢」である金融緩和と財政出動、成長戦略により、円安・株高が進み、雇用が改善したと強調する。「この道しかない」と訴えるが、果たしてその通りだろうか。
 アベノミクスは「期待先行」の経済政策だ。デフレ脱却を目指して日銀が大規模な金融緩和を実施することで、景気が回復するのではないかという期待が生まれる。その結果、為替相場が反応して円安になり、株価が上昇した。
 株価を上昇させるため安倍政権は、年金資産約127兆円の投資配分を見直した。債権に比べてリスクの高い株式の割合を大幅に増やした。高い収益が見込める半面、運用に失敗すれば損失が膨らむ。年金積立の政治利用は慎むべきだ。
 確かに円安・株高によって大企業の業績は改善したが、中小零細企業まで恩恵は行き渡っていない。むしろ円安は原材料費を押し上げるなどマイナスだ。成長戦略をしっかり描けず期待に頼るだけの政策なら長続きしないだろう。
 県内に目を転じると、観光客の増加や堅調な建設需要などを受け、観光業や建設業、飲食業などさまざまな分野で人出不足が広がっている。ことし10月の有効求人倍率は0・76倍。5カ月連続で復帰後最高値となった。上昇の一因に求職者が求める待遇と合致しない雇用のミスマッチがある。
 10月の完全失業率は4・9%と4%台に改善したが、完全失業率と有効求人倍率は依然全国最低水準にある。全体の雇用者(役員を除く)のうち、非正規労働者の割合は40%前後だ。県内企業はほとんど中小零細企業で正社員化が難しい事情があり、県外に比べて働く環境は不安定だ。大企業との賃金格差も広がる。県内の実質賃金指数は前年比割れが続いている。
 10月の消費者物価指数の生鮮食品を除いた総合指数は、前年同月比2・8%上昇の104・0。アベノミクスによる円安によって輸入価格が上昇したことが背景にある。4月の消費増税でさらに負担が増している。
 正規と非正規、大企業と中小零細の格差は拡大している。大企業重視の政策か、格差を是正し安定した生活を確保するのかが争点として問われている。