<社説>秘密保護法施行 やはり廃止しかない 民主主義の礎壊す悪法だ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 特定秘密保護法が施行された。昨年12月の法成立以降、多数の識者・団体が反対や疑問の声を上げてきたが、政府はまともに向き合ってこなかった。

 運用基準の素案について政府は意見を公募したが、賛否の集計は見送った。反対のあまりの多さを隠すためであろう。これで「向き合った」と言えるはずがない。
 今回の衆院選で与党は同法への対応を公約に入れず、争点化を避けた。野党は法の見直しや廃止を訴えるが、議論が深まったとは言い難い。与野党は論戦を尽くし、選択肢を提示してもらいたい。
 
暗黒時代再来

 この法をめぐっては「何が秘密か、それが秘密」と言われる。秘密指定の基準があいまいで、指定対象を具体的に明示しないこの法の性質を端的に表している。
 この結果、市民がそれと知らずに「特定秘密」に接近し、処罰されることもあり得る。軍機保護法をめぐる戦前の宮沢・レーン事件を思い出す。旅好きの大学生が旅先で聞いた海軍飛行場についての会話を、帰宅後に英語教師に紹介し、投獄・拷問され、病死した事件だ。その10年前にリンドバーグが着陸した飛行場である。誰でも知っている軍の施設について会話しただけで罪に問われた。そんな暗黒時代が再来しかねない。
 指定基準があいまいだと、政治家や役人に都合の悪い情報が隠されるのは必至だ。政府は「国益を守る」と言うが、「時の政権益」を守ることにほかならない。
 現に専門家は、例えば琉球新報が暴いた外務省の文書「日米地位協定の考え方」は秘密指定される可能性が高いと話す。米軍の治外法権を日本政府が進んで認めている実態を示す文書だ。
 沖縄返還をめぐる核持ち込み密約、財政負担密約、犯罪米兵を原則として罰しない密約など、政府がひた隠しにした密約は枚挙にいとまがない。今後は政権にとって不都合なこれらの真実を報道機関が探ろうとするだけで、処罰されることになりかねない。
 秘密指定の恣意(しい)性が批判されると、政府は監視機関設置を強調した。だが内閣保全監視委員会も内閣府の独立公文書管理監も、しょせんは政府内機関である。政府内機関が政府を「監視」などできるはずがない。「全ての情報にアクセスできる独立した監視機関」確保を求める国際原則(ツワネ原則)からの逸脱も疑われる。国連人権委員会からも「メディアを萎縮させる」と懸念の声が上がる。国際標準に達しない法なのだ。
 
半永久的指定

 問題はまだある。秘密指定が繰り返され、永久に秘密にされかねない点はその最たるものだ。
 原則30年以下とされる指定期間も、「外国政府との交渉に不利益を及ぼす恐れのある情報」など7項目は半永久的に延長が可能だ。密約などがここに該当するとされるのは優に想像できる。すると、政府がどんな密約を結ぼうと国民は永久に知ることができない。これで国民主権、民主主義国と言えるだろうか。
 内部通報制度があるから健全だ、という主張も怪しい。公務員が政府の失態を隠蔽(いんぺい)する秘密指定を見つけ、告発しようとすれば、その窓口は当該省庁だ。省庁ぐるみの隠蔽であれば、敵の本陣に駆け込むようなものだ。
 しかもその際、特定秘密の内容を伝えることは許されず、「要約」を求められる。要約の基準は不明だ。要約に失敗すれば漏えい罪に問われる。これでは、通報などするなと言うに等しい。
 あまりにも問題が多すぎる。しかも一つ一つが深刻な問題である。民主主義の基礎を根本から掘り崩す性質を持つ。微修正では糊塗(こと)できない。それが多数存在する以上、単なる法改正では済まされない。やはり法の廃止しかない。
 新しい国会はこの法の廃止法案を可決してもらいたい。廃止でどうしても合意できないなら、少なくとも効力を停止すべきだ。