<社説>サキタリ洞人骨 祖先像の解明を期待する


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 南城市のサキタリ洞遺跡で9千年前より古いとみられる人骨が県立博物館・美術館の調査で見つかった。この遺跡ではことし2月にも国内最古となる後期旧石器時代の貝製品が発見されている。これらの発見を契機に沖縄の祖先像の解明が一層進むことを期待したい。

 今回の発見が極めて重要なのは、人為的に埋葬された人骨だと考えられることだ。人骨はあおむけに横たわった姿で発掘され、特に左腕の前腕と上腕の関節が組み合わさった状態で見つかっている。さらには人骨を覆うように石灰石が置かれていた。
 これらの発掘状況は、洞窟内に入り込んだ遺体が自然に埋没したのではなく、死後、洞窟内に葬られた可能性があることを示しているという。埋葬されたものと断定されれば国内最古級の埋葬人骨となる可能性がある。9千年前より古い時期に人類がサキタリ洞を墓地として利用していたとの見方もある。当時の葬送文化を知る重要な手掛かりとなるだろう。
 今回の発見は、沖縄の先史時代の空白を埋める可能性があるという点でも非常に意義深い。
 沖縄人のルーツをたどる上で港川人の存在は極めて重要だ。サキタリ洞遺跡に近い港川フィッシャー遺跡で見つかった約2万2千~2万年前の人骨で、日本の旧石器人骨の代表例となっている。
 ところが、港川人から次の貝塚時代(約8千年前)の間には人類の痕跡が途絶える約1万年の空白がある。現在、沖縄に住む人々と港川人との関係は未解明な部分が多く、考古学や遺伝子研究の分野でさまざまな議論が続いている。
 2月に見つかった貝製品も港川人の時代と貝塚時代の間の空白をつなぐものとして注目されている。幸い、人骨の保存状態は良好で頭部の復元も可能という。港川人と顔つきを比較することができれば「歴史の空白を埋めていく分析」(土肥直美琉球大非常勤講師)も期待できる。
 サキタリ洞遺跡では貴重な発見が相次いでいる。沖縄の考古学を大きく塗り替える可能性もある。2012年度から調査は一括交付金を活用している。沖縄の祖先像を解明するためにも、しっかりとした調査費の確保が今後も不可欠だ。
 同時に遺跡保存の手だても必要だ。文化財指定などの措置を講じながら、貴重な遺跡を守っていくよう万全を期してほしい。