<社説>STAP存在否定 科学界全体で信頼回復を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 存在に疑義が生じていたSTAP細胞の有無を調べている理化学研究所(理研)の検証実験で、論文執筆者の小保方晴子氏自身も論文通りの手法でSTAP細胞を作製できなかったことが分かった。

 理研は来年3月末まで予定していた検証実験を打ち切る方向といい、第3の万能細胞は事実上、存在が否定されたことになる。
 体細胞に刺激を与えることで体のさまざまな細胞に転化するとされたSTAP細胞はES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に比べ、容易に作製できるとされ、世界的な注目を集めた。
 けがや病気で失われた臓器や体組織の修復など再生医療への応用が期待されていた。
 しかし理研のこれまでの調査で、小保方氏は論文に違う実験の画像を使ったり、二つの写真を切り貼りしたりしたことが明らかになっていた。小保方氏は論文を撤回し、論文を掲載した英科学誌ネイチャーも撤回しており、研究成果は白紙となってはいた。
 それでも、小保方氏が検証実験に加わることで、STAP細胞の作製成功にわずかな望みをかけた患者や医療関係者もいたに違いない。極めて残念である。
 科学の世界では、存在を証明するのに何十年もかかるケースもあるという。STAP細胞もその可能性が完全にないとは言い切れない。だが、論文通りの手法で作製できなかったことは、論文が実際の実験に基づいていないということである。
 小保方氏が「200回以上、作製に成功している」「STAP細胞はある」と主張した根拠はないと言わざるを得ない。
 「こういうものがあったら」と、科学や医療などの進展に向けて成功するまで地道に実験を重ねることが研究者のあるべき姿である。十分な成果が上がっていない段階で「ない」ものを「ある」と発表することは、あってはならない。
 STAP細胞をめぐる混乱は成果を急ぐあまり、その禁を犯したことが一因であろう。
 しかし最大の要因は論文を精査する仕組みが決定的に欠けていたことにあるだろう。
 STAP細胞論文問題で、日本の科学技術に対する国際的な信頼は大きく傷ついた。論文の捏造(ねつぞう)や不正を見抜く態勢の構築に科学界全体で早急に取り組む必要がある。