<社説>サイバー攻撃 脅迫に屈してはならない


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 表現・言論の自由は民主主義の根幹である。卑劣な脅迫に屈し、放棄することがあってはならない。

 北朝鮮の体制をやゆするコメディー映画をめぐり、ハッカーがネット上で上映館へのテロ攻撃を示唆したり、サイバー攻撃が多発したりした件で、米連邦捜査局(FBI)は北朝鮮の犯行と断定した。
 これを受けオバマ大統領は映画の公開中止について「間違いだった」と批判し、「自己検閲を始めるような社会は、米国ではない」とも述べた。
 表現の自由をゆるがせにしないという考えは理解できる。ハリウッドでは北朝鮮を扱う作品の製作を見直す動きもあるというが、卑劣なテロ予告をする者に凱歌(がいか)を上げさせてはならない。米国社会は表現の自由を萎縮させないでほしい。
 これは「ザ・インタビュー」という映画で、北朝鮮の金正恩第1書記が暗殺される筋書きだ。北朝鮮は6月に予告編を非難した。
 11月には映画製作会社を何者かがサイバー攻撃し、システムが破壊されて社内の機密や従業員の個人情報が盗まれた。さらに上映館へのテロ予告があり、上映取りやめが広がった結果、製作会社は公開中止を余儀なくされたという。
 北朝鮮の犯行とする根拠についてFBIは、使われたプログラムやアクセスの手口を挙げる。北朝鮮は「新たな捏造(ねつぞう)」と犯行を否定しつつ、サイバー攻撃そのものは「正義の行為」と擁護した。
 現段階で北朝鮮の犯行とする根拠が十分かは不明だ。誰が犯人にせよ、内容に不満なら言論で対抗すべきなのは論をまたない。一方、名指しで批判する以上、FBIは断定の正当性を立証する必要がある。根拠をできる限り詳細に示し、国際社会を納得させてもらいたい。
 オバマ氏は北朝鮮に対抗措置を取る考えを明言した。だがサイバー空間は「交戦規定」の無い未知の領域だ。制御不能な事態が生じないよう、慎重な検討を求めたい。
 他方、今回の経過は日米の風土の違いも痛感させた。日本でも「慰安婦」を報じた元記者を講師とする大学へのテロ予告などが跋扈(ばっこ)しているが、首相が毅然(きぜん)と対決を宣言することなどない。政府は事実上放置している。
 表現の自由に至上の価値を見いだす米国に対し、日本政府は「価値観を共有する」といえるだろうか。真に価値観を共有するなら、国内でも卑劣な脅迫を断固として退ける姿勢を示してもらいたい。