<社説>第3次安倍内閣 民意に謙虚であるべきだ


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 「自民1強」「首相1強」が指摘される中で、第3次安倍内閣が発足した。安倍晋三首相には、謙虚な姿勢で政権運営に臨む姿勢が今こそ必要であろう。

 首相は自身の経済政策「アベノミクス」をさらに推進し、デフレ脱却に向けた経済再生に全力を挙げる姿勢をあらためて示した。
 大規模な金融緩和と財政出動を柱とする経済運営により円安・株高が進み、大企業の業績は改善した。大都市や富裕層では景況感は好転しつつあるが、地方や中小零細企業に恩恵は届いていない。首相が認めるように、政策の効果は不十分だ。
 むしろ消費税増税や円安による原材料価格高騰で国民の負担は増しており、物価変動を加味した実質賃金はマイナスが続く。非正規労働者の割合は増大し、格差や貧困解消の取り組みは遅れている。
 選挙後の共同通信の全国世論調査ではアベノミクスで景気が今後良くなると思うかとの質問に6割強が「思わない」と答えた。首相は「この道しかない」と訴えるが、国民はそう見ていない。全体の底上げを図る政策を検討すべきだ。
 もとより国民は政権の全てに信任を与えてはいない。衆院選で自民、公明両党は3分の2以上の議席を維持したが、自民は公示前より議席を減らした。小選挙区の投票率が戦後最低の52%台に沈む中、自民は5割足らずの得票率で7割以上の議席を得た。比例でも有権者の2割足らずの票で4割近い議席を獲得。野党の不振や選挙制度の仕組みで圧倒的多数を得たにすぎない。事実、改憲や集団的自衛権、原発再稼働などは、政権方針とは反する意見が世論の過半数を占める。民意を直視すべきだ。
 米軍普天間飛行場の移設問題ではなおさらだ。県内では辺野古移設に反対する野党候補が全勝した。辺野古は全国的な争点にならなかったが、それでも選挙後の調査では移設を計画通り進めるべきとの回答は3割に満たず、「いったん停止」「白紙に戻す」の合計が63・7%に上った。
 普天間交渉に携わった元米高官らも計画見直しを求める中、首相は辺野古が普天間返還の「唯一の解決策」という硬直した思考をいい加減改めるべき時期に来ている。新内閣発足をその「英断」を下す好機としてもらいたい。
 民意と向き合い、丁寧な議論の末に解決を図るという民主主義の原点に首相は立ち返るべき時だ。