<社説>北部2病院統合 命を守る医療体制目指せ


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 地域によって県民の命の重さに差があってはならない。命を支える医療体制は等しく充実を図るべきだ。安心して暮らせる地域づくりのため信頼できる医療機関の整備は不可欠であり、特に医師の確保が優先されなければならない。

 「北部地域における医療提供体制の確保に関する研究会」(座長・宮城信雄県医師会長)が、県立北部病院と北部地区医師会病院の統合を提言する報告書を県に提出した。統合のめどは5年後で、本島北部地域の慢性的な医師不足解消が目的だ。
 両病院は北部地域の救急医療、小児、周産期医療、循環器医療で大きな役割を果たしてきた。しかし、北部病院では医師不足から産科など一部の診療科で診療制限が続いている。医師会病院も医師確保が厳しい状況にあり、北部病院の診療機能低下に伴う患者増への対応に苦慮している。
 医療面に関して言えば、北部地域では安心して生活できる環境が整っていないと言わざるを得ない。入院が必要となる周産期患者の76%、がん患者の34%が中南部の医療機関に頼っていることは、厳しい医療環境の表れである。
 報告書は2病院の統合の効果として、重複している診療科を集約することで医療資源の効率化が進み、医師の効率的な配置が可能になると指摘している。
 沖縄だけに限らず、医師不足によって全国の地域医療が崩壊の危機に直面している。2病院統合は医師不足、医療崩壊という「負の連鎖」を絶つための方策であり、その方向性は理解できる。
 課題となるのが統合後の経営形態だ。報告書は県立病院としての運営や一部事務組合、地方独立行政法人などによる運営を想定している。何よりも地域のさまざまな医療ニーズに対応できる病院経営を目指すべきだ。地域住民の要望に反し、診療科を削減するような合理化は避けなければならない。
 多くの医師を集め、北部地区の医療に長期間従事してもらうための取り組みも重要だ。行政機関との連携で居住環境の整備や教育環境の向上を図る施策を講じる必要がある。
 復帰後の沖縄振興が目指した「県土の均衡ある発展」は社会資本整備だけではなく、医療・福祉も含む。しかし、生命を支える医療体制に偏りが生じている。その事実を厳然と見据え、均衡ある医療体制を確立しなければならない。