<社説>税制改正 富の再分配こそ必要だ


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 安倍晋三首相の経済政策は、大企業や富裕層を潤わせることで、中小企業や低所得層にもその富が波及していくとの「トリクルダウン」理論でよく語られる。

 自民、公明両党が昨年末に決定した2015年度税制改正大綱には、英語で「徐々に流れ落ちる」という意味の「トリクルダウン」の発想が色濃く反映されているが、やはり違和感を禁じ得ない。
 最大の焦点だった法人税の実効税率引き下げは、財源確保よりも減税を先行させ、2年間で3・29%引き下げることで決着した。法人税減税で経済活性化を図ろうとする首相の強い意向がにじむが、企業間格差が広がる懸念は否定できない。
 引き下げの恩恵を受けるのは当然、法人税を納めている黒字企業に限られるから、企業の「優勝劣敗」はよりはっきりするだろう。赤字企業は外形標準課税の拡充で増税となる。要するに稼ぐ企業がさらにもうかるような改革だ。
 首相としては稼ぐ企業を選んで継続的な賃上げを促し、中小企業や家計にその効果を波及させたい考えだろうが、疑問は拭えない。
 円安株高で輸出型製造業を中心に大企業の業績は改善したが、物価の影響を加味した実質賃金は17カ月連続でマイナスが続く。法人税を減らしても、企業の内部留保が増えるだけにはならないか。そもそも消費税は8%に引き上げたのに、なぜ企業は減税かと率直に感じる国民も多いだろう。
 安倍政権は年末に3・5兆円の経済対策を決めた。そもそも消費税をことし10月に再増税するとして検討していたはずだが、再増税は延期されている。法人税減税の一方で、財政再建は後回しにした感は否めない。負担能力に見合った税負担という基本原則に照らした税制の再議論が必要だろう。
 今回の税制改正では親や祖父母から子や孫へ非課税で資金贈与できる制度が拡充された。結婚や育児、住宅費用の贈与の非課税枠を広げ、若年層の消費を促したい考えだ。だがこれも恩恵は一定の資産を持つ家庭に限定される。「金持ち優遇」との批判は免れない。
 安倍政権が取り組むべき喫緊の課題は、円安株高の進行やそれに伴う物価上昇で拡大している格差や貧困の解消だ。所得を再分配する税制の役割を今こそ見直し、一部に偏る富を広く全体に行き渡らせる政策にこそ注力すべきだろう。