<社説>バス定期値上げ 利用促進に逆行しないか


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 県を挙げたバス利用促進の取り組みに水を差すことにならないかと強く懸念せざるを得ない。

 沖縄バスと琉球バス交通が2月1日から定期券を約4割値上げする。東陽バスは昨年12月1日から既に定期券の値上げに踏み切っている。各社とも円安に伴い燃料価格が高騰し、経営を圧迫していることが値上げの理由だ。
 それにしてもだ。毎月の定期代が一気に4割増となるのは、家計への打撃があまりにも大き過ぎる。算定基準となる基本推定乗車回数を42回から2004年3月以前の60回に戻すとするが、果たして妥当な値上げ幅なのか、甚だ疑問だ。「週休2日」は定着しつつあり、実態に即した算定とはとても思えない。11年前の値下げ時の理由に挙げた「新たな利用客の喚起やマイカー通勤からの転換を促す」狙いからも大きく逆行する。
 それこそ大幅値上げともなれば、利用者に対する懇切丁寧な説明が必要だが、バス各社からマスコミを通じた運賃改定の発表は一切なされておらず、理解に苦しむ。ホームページや車内の張り紙などで一方的に告知するだけで事足れりとするのは、説明責任を果たしているとは到底言い難い。
 定期券の購入者は日常的にバスを利用している、いわば常連客だ。運転免許を持たない中高生などの交通弱者のほか、通勤に利用する社会人が中心だ。経営圧迫のしわ寄せが、他に手段を持たない交通弱者など常連客だけに及ぶことにも詳細な説明が必要だろう。
 県やバス各社など関係機関でつくる県公共交通活性化推進協議会は、深刻なバス離れを食い止めようと12年12月、「わった~バス党」を立ち上げ、各メディアなどを活用して積極的に広報活動を展開している。バスの現在地が分かる案内システムや低床で乗り降りがしやすいノンステップバスの導入など各社への支援もあり、13年度のバス利用者数は前年度比1・6%増の約2583万人となった。本土復帰後、右肩下がりで減少していたが、初めて上昇に転じた。
 マイカーからバス通勤に切り替えた利用者も着実に増えたはずだ。県内の公共交通の活性化に向けて明るい兆しが見え始めていた、その矢先の定期券値上げだ。バス事業の許認可を担う沖縄総合事務局や県の役割も極めて重大だ。今後の具体的な対応策を注視したい。